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もう後がないというのは正しくこの状態を示すものであって。

「あ、俺があげたお菓子は無効だから」

一瞬考えた対抗策もあっさりと奪われて。

「っ・・・」

そんな状況が誰もいない屋上で繰り広げられている。


「時雨、あきらめが悪いねぇ」

「そりゃそうですよ」

「普段はびっくりするぐらいに諦め早いのに」

「いやいや、それは気のせいです」

「そー?」

覆いかぶさられている状況で先輩の顔を見るのにようやく慣れてきた。
気まずい気持ちと恥ずかしさが混ざって先程までキョロキョロと視線を動かしていたものだ。

そのある意味物凄く澄んだ二つの瞳に視線がぶつかる。
まっすぐとこちらを見ている瞳には明らかに面白がっているという事が覗われる。

「先輩、俺授業受けなきゃいけないんでそろそろ失礼させてもらっても・・・」

「そーだねー。じゃあいい加減覚悟を決めようか」

そう言うと顔がゆっくりと近づいてきて額と額がぶつかり合う。

「目、閉じないの?」

「ちょ、本当にやめましょうよ!!」

「えー?やだー」

「うー・・・」

小さく唸ってみても、まぁ当たり前に効果がある訳もなく。

「はいはい、目瞑るー」

その言葉に最後の抵抗ということで一回睨んでからそっと目を瞑る。
もう高校時代の悪しき思い出として気にせずにしようと決心して唇に衝撃が来るのを待つ。

待つ

待つ

「・・・・?」

待てども唇に衝撃は来ないし、だけれども額の熱はそこにある。
疑問に思って目を開くと。

「はい、いただきマース」

獣みたいな飢えた目をした先輩の顔を両目にしっかりと入れる状態で唇が合わさる。

「っ・・・ん・・・」

決して深いものではないけれどじっくりと嬲るようなキス。
上唇を先輩の舌で舐められて思わず声が出る。

「、・・・んぅ・・・」

声にも喘ぎにもならない音が口から流れ出る。
もう止めて欲しいのに柔らかい相手のそれは離れていく気配は微塵もなく。

舌も入れられていないのに気持ちがいい、だなんて思ってしまうのは先輩の経験値によるものなのだろうか。
ぼーっとした頭で考えられたのはそんなことだけで、熱にうかされたような、夢を見ているような感覚。

それを現実へと呼び寄せるのは最後の仕上げとでも言うような大きなリップ音。
ちゅっと流れるその音に顔が真っ赤になっていく。

「ごちそうさまでした」

ニヤリと濡れた唇を指で示しながら笑う先輩に頭が許容オーバーしたらしくてクラクラする。

とりあえず

「さようならっ!!」

先輩の胸元を押して慌てて扉へと向かう。
重い鉄の扉を押して屋上から出るとズルズルと滑り落ちて地面に座る。

鉄に頬を擦り付けたら、いつもよりそれは冷たく感じられた。



            *


風になびく髪の毛を抑えながら声を上げて笑う。



「だから、好きな子はいじめたいタイプなんだって言っただろ?」


Fin






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