瞬きを忘れたその時間。
現実世界で何秒だったかなんてそんなことはどうでもいい。
視線が交わる。
目が合ったその瞬間からそらすことも瞬きすることもできなくて。
一緒にいた友達に肩を叩かれて、ようやくその異質な時から目をさます。
数秒たって知らない人と目が合うってなんだか気不味い。
そんな普通の感想が出てきた時に、知らないお相手が目の前にきた。
「よう」
「は、あの・・・え、好きです」
「は?・・・俺も」
悲鳴。騒めき。
阿鼻叫喚。
心底馬鹿だと思う。
友人に哀れんだ目で見られ、そして目の前には初対面の人。
ネクタイの色で先輩だということはわかった。
それだけの情報では状況把握などできるはずもなく。
それまでの行動を振り返ってみてもあまりにも謎すぎて頭が痛くなってきた。
この謎の告白は昼休みに1番人の集まる食堂で行われてしまったのだ。
それにより今現在も地獄のような悲鳴やらなんやらに包まれているが、表現のしようがないので割愛させてもらおう。
さて、今日はどことなく浮ついた雰囲気や奥の席が騒がしいのを不思議に思いつつも、いつも通り大好きな日替わりランチBを堪能していた。
俺自身は普段通りの行動しかしておらず、変なとこはその周りの雰囲気だけ。
その原因を友人に聞けば、生徒会様がランチを食べに来るらしい。
そりゃ生徒会だろうが人間なので食事するのは当然だろうと思うのは俺だけではないはずだ。
聞けば普段は騒ぎが起きぬよう生徒会室に食事を運んでもらっているらしい。
ならば何故来たのか。
時期外れの転校生を副会長が気に入り、面白そうだと生徒会メンバー総出で見にいくらしい。
「その情報どこで手に入れたの?」
「本に書いてた」
へー。
友人は未来予想図かなんかでも持っているのだろうか。
疑問はあったがさして興味は無かったのだ。
生徒会様が全校集会とかで喋ってても一年は席が後ろだから顔なんか見えないし。
入学式の時会長が喋ってたらしいけど、目が悪いくせに授業中しか眼鏡をかけないので前の席でも顔の認識が出来なかった。
蛇足だがあんまりにも日常に影響が出てきたので先週の休みにコンタクトを買った。
まだ慣れなくて着用に20分かかった。つらい。
そしてそれから一層ざわめきが大きくなってきて。
この席は真ん中の通路からは離れたところだったので、人が来てもあまりわからない筈だった。
長すぎる前置きをしたが、これからが謎展開の始まりだ。
飯だけに視線は集中してたがくしゃみをしたくなり、飯にかからぬよう顔を横に背けて思いっきりした。
うるせーと友人に言われながらも、顔を横にしたまま顔をあげれば、そこからはみんな知っての通りの謎展開。
目があってしまったのだ。
女の幼馴染の夢見がちな奴が、確か目がなんとか秒以上は合うとそれは運命の人だと。
具体的な数字が思い出せないが確かに目があってすぐそらさないのはおかしい。
俺は多分頭がおかしかったのだ。
そうかその時だけ急に頭のネジが緩くなって口も勝手に動いちまったんだ。
じゃあ仕方なくないな。馬鹿だ。
「聞いてんの?」
「・・・はい」
「名前は?」
「先輩は?」
人に聞くなら先に名乗れとかじゃなく、単純に名乗りたく無かったので質問返しだ。
質問返ししまくってなんか上手い感じに、いい感じに収まんねぇかな。
「一応ここの生徒会長だけど」
「あ、ハイ」
知ってて当然ですか失礼しました。
どうやら会長様も名乗りたくないと仮定。
よしならば互いにあの瞬間頭がおかしくなったのだとして、よし解散!
「とりあえず行くか」
「・・・ん?」
「恋人といちゃいちゃすんのにこんな大勢の中って、俺は恥ずかしいけど」
「え、あ、そうですね」
「つーわけで二人っきりになれるとこ行くぞ」
「はっ、ちょ、・・・!!」
おーっと手を握られた!?
なんと恋人握りだ!!!
もうわけがわからないどうなっているのだたすけろゆうじん。
「こんな展開になるとは・・・リアルも侮れんな」
「おいてめ、たすけろください!!」
「皿は片付けておくからゆっくりな。ゆっくり」
無情にも会長様に引っ張られて食堂から大注目の中去って行くことに。
この後何が起こるのかわからないけど、友人を許さぬことだけは決めた。