みすぼらしい。汚い。
そして金を持っていない。
外見で人を判断するなとよく言うが、正直これはもう仕方がない。
貧乏をそのまんま表したかのような人間が出てきたから。
「・・・あの、なにか」
怯えたように声をかけてきた。
そいつに、舎弟が最初だからと優し気なようでいて、馬鹿にしたような声音で話しかける。
みるみるうちに顔が青くなっていく。
元々が真っ白な肌の為、余計に不健康そうだった。
「あいつは、どこに」
「だからさー、居ないから君のとこ来たんだよ。わかる?」
「っ、すみません」
「それで返済の目途は?これ金額ね」
そうして差し出す紙に書かれたのは、コイツでは絶対に、いや普通のサラリーマンでも払えないような金額であった。
どうせこいつから金をとっても微々たるものなのは確実だし、どうやって金をつくろうか。
顔さえよければ、いわゆるゲイ専用の風俗にでもぶちこめばいい。
だが正直これはいただけない。
異性愛者でもB専と言うのがいたり顔の好みは人それぞれだが、少なくとも大衆受けはしない顔だ。
ならばSM好きなジジィにでも売りつけようか。
だがその場合調教師にでも預けねばならないし面倒だ。
では早々に内臓でも貰おう。
勝手に結論を決めた貫地谷だが、オロオロしていた男が金を払えないのならば必ずそうなる。
それは仕方がない、ある意味定めとでも言えばいいのか。
そもそも安易に代理人になる馬鹿がいけないのだ。
「あの、それはどうやって支払えば?」
「金引き出してこい。・・・払えんのか?」
と、思惑に囚われていると話が進んでおり、どうやら返すあてがあることはわかった。
最終的に金さえ手に入ればそれでいいので、ただ後ろから眺めるだけの貫地谷。
それを哀れな事態にはならずに済んだ男がそぉっと見る。
二人の視線は交わらない。
視線や気配に敏感な貫地谷が男を見るより早く、目を逸らしたから。
男は一度部屋の中に入っていく。
さっきのは何だったのかと気になったものの、貫地谷は息を吐いて誤魔化した。
外着に着替えた為か先程よりは小綺麗になった男は、近くの銀行に行ってくると言い歩き出した。
逃げられると困るが、舎弟共は見るからに怪しい格好をしている。
仕方がないとため息をついた貫地谷は、男の隣で静かに歩き始めた。
男は、当然と言うべきか怯えたように距離を取る。
「お前何歳?」
「21です」
「新卒か。金どうする気だ?」
「・・・宝くじ、当たったんです」
想定外の返答に一瞬詰まった貫地谷だったが、我慢できずに笑い声をあげた。
男は気まずそうに顔をそらすが、貫地谷の気にするところではない。
「そりゃめでたい!一等か?」
「そうです」
「ならこのぐらいなら簡単に払えるな」
ならば逃げる心配もないだろうし、何かあってもただのサラリーマンだと少しだけ肩の力を抜く。
それを感じた男は、安心したかのように息を吐いた。
当然、一般人である男は一見普通の社会人に見えるが、オーラのある貫地谷のことを恐怖に感じていた。
だが金さえ渡せばこのように気さくな態度になり、手荒な真似をされる心配もなくなった。
小さな安心感を胸に、意味のない雑談をして歩くのだった。
銀行に着き金を下ろし、貫地谷に渡す。
宝くじで一等当たっても、金銭感覚が普通の男はきっと一生使い切らないだろう。
なので今回も特に痛手はなく、このまま無事に終わるのを待つのみ。
もう代理人なんかになるのはやめろよ、と言う貫地谷にはいと返事をした。
その瞬間、初めて視線が交わって。
この時点を持って二人の接点が消えた。
気づけば貫地谷は背を向け、男はアパートに向かって歩き始めていた。
ハッとして男が後ろを向くと見えたのは小さくなった貫地谷の背だけ。
辿り着いたアパートの部屋の前で、中に入らずにほうけたまま考える。
身体を撃ち抜いたの衝撃は何だったのか。
そして別れる間際、片方だけ口端を釣り上げた貫地谷の歪な笑みが脳に深く刻まれたのはどうしてか。
モヤモヤと心の中で疼くが、それもやがて薄れていくのだろう。
既に途切れた縁は、奇跡が起こらぬ限りもう二度と繋がれることはないのだから。
そもそも今回偶然重なっただけで、通常ならばあんなのに会うこともないのだと男は考える。
それでも、会いたいとなんて思ってしまうなんて。
溜息を吐いた男とは別に、既に事務所に戻った貫地谷は考える。
ただ、目があっただけだ。
それが、何故。
貫地谷が男に興味を持った、それだけで相当な縁が結ばれているのだが、男は知る由もなかった。