その痕をなぞると

床に力なく倒れる身体。
意識が無いことなど構わずに、馬乗りとなって首を絞める。

死ねば良いと思うのだ。
そうしたら、もう、すべてが、終わる。
きっと、幸せに。

力任せに絞めたけれど、本当に死ぬ前に手を離す。
たぶんもう少しすればくっきりと痕がつくのだろうなぁと思えば自然と上がる口角。

いい気分のままに外へ食べ物を買いに出かける。
近くのコンビニで適当に弁当やパン、水を買えばすぐにあの部屋へと戻る。
死にかけているアイツが、アイツだけが居るあの部屋に。

床に倒れたままで、やはり意識など無い身体を踏みつけ、蹴り、脇に退かせる。
空いた床にはアイツの鼻血かなんかの血液が付いている。
しかし、気にすることなくその床に座り込み、買ってきた食料を食べる。
一応生かすつもりなのでアイツの分の食料もあるけれど、それはとても少ない。

ああ、この時間が心底嫌いだ。
甚振ろうにも意識が無いためにつまらない。
そして、どうして自分はこんなことをしているのかと考えてしまうのが、嫌だ。

俺は純粋に暴力が好きだ。
この時点で既に歪んでいると言われるのかもしれないが。
息をするように人を傷つける。
傷ついた肌も、流れる血液も、そして怯え、恐る様子も。

暴力とは実に簡単だ。
身体の中を暴れまわるエネルギーのままに動くだけだから。
殴る、蹴る、肉を掴んで捻る、抉る、シンプルな動作。

それが俺にとって自然なことで、快楽すら感じることの出来る行為だ。
だからそのままに、衝動のままに動き、考え、生きてきた。

そんな中で出会ったコイツに、衝動が湧き上がった。
俺はそのままに暴力をふるった。
涙を流し、怯えた瞳をする。
助けを求め、縋り付く様。
本当に、純粋に、その様子を見て俺は何て幸せなんだと思った。

今まで数多に向けていた衝動を全てコイツ一人に。
だけど周囲は俺からコイツを奪う。
周囲に守られたアイツに手を出すのはキツイ。

だから奪おうと思ったのだ。
これもまたシンプルな考えだ。
難しいことなど考えずに、ただ感情のままに。

放任で、とうに俺のことなど見捨てている親にアパートを借りて貰い、そこにアイツを引きずりこんだ。
衝動が湧いた時暴力をふるう、それが一日中出来る幸せな生活だ。

しかし、死んで貰ってはあの涙を見ることができない。
だから飯を与え、風呂にも自由に入らせている。
ああ、俺の衝動が湧いていない時の自由だ。

人一人を意のままにするというのも、また強い快楽を与えて来るためにここでの生活は本当に、本当に最高で。
なのに、時折湧き上がるこの、胸糞悪い不快な感情が、邪魔をする。

だから、ふいに思うのだ。
死んでしまえ、殺してしまえ、死にたいと。
俺が振るう暴力で、いつかきっと死ぬだろう。
だけど俺はいつかではなくこの手に殺意を乗せ、きちんと殺したいのだ。
コイツの生死も俺が握っているという感覚を味わいたいからか、なんなのか。

独占、執着、依存、それから。
考える。
思考は常にフル稼働。

それでもはっきりと出てこない答え。
俺は、何がしたいのだろう。
死なれては困る、殺したい、矛盾。

意識を失っているコイツを見ていると、とじられた目から涙が一筋流れていた。
きっと何らかの夢を見ているのだろう。
親友、先輩、家族、それとも女か。

どうして、なんで、ここに居るのは俺なのに。
決して俺を見ないわけではない。
瞳に俺を写し、感情で彩られる。
ドス黒い、恐怖という感情で。

だけど、時折。
暴力を振るっている最中でさえアイツは俺を見なくなる。
現実逃避と一種か何かか。

なんでもいい。
こっちを、見て。

何をしても、未来永劫コイツの全ては手に入らない。
それがこの暴力の後にありありと伝わってきて、こうして何をしてるのかと考えるつまらない時間を過ごす羽目になる。

最早独占とか執着とか、そんな言葉の更に先を行くような感情が胸を占める。
どうすればいい。
何をすればいい。

アイツが思い出したように口角を上げる。
どうやら随分幸せな夢らしい。

それだけで、やはり何とも言えない感情で埋め尽くされる心。
鏡のないこの部屋で、自分が今どんな顔をしてるか確認する術はない。

だから、ただ何を考えるでもなく立ち上がり、眠っているアイツの身体を蹴り上げた。
パッと開かれた瞳は見ないようにして、力を加えて本来とは逆向きにコイツの指を倒す。

上がる悲鳴を生活音のように聞きながら、やはり、纏まらない思考で痕のついた首を絞めた。


その痕をなぞると
(少しだけ泣きそうになった

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