涙の終着点

守りたい人、愛したい人、敬いたい人、支え合いたい人、傍に居て欲しい人、笑ってほしい人、大事なものは一つには絞り切れなくて、多くを選びすぎたり、一つしか選べなかったり。
どちらを選んでも後悔することも、どちらを選んでも幸せになることは知っている。
でも、どちらも選ばなくても幸せになれることも知っている。

零れ落ちた水は、枠からはみ出て重力に従い落ちていく。
地面に落ち、一部を変色させていったそれは、暫くすると元に戻った。



唐突に肩に回る腕、斜め前で友人と話しながら笑う横顔、道の脇にある花壇をしゃがみ込んで眺める後ろ姿。
どれを選べばいいのだろうか、なんて考えながら楽しそうに話しはじめる言葉に適当に頷いていれば、斜め前に居たあの子が転びそうになる。
何を考えるでもなく、肩に回されていた腕を振りほどき、足を踏み出すと倒れる前に届いた腕で背中をそっと支える。

「っ、ごめんなさい!」

「いや、大丈夫?」

「平気です。ありがとうございました」

「気にしないで」

その後も頭を下げる彼女を見送り、俺のもとへ来る友人。

「お、あの子可愛いよなぁ」

「そうだな」

「お前あーゆーのタイプ?」

「いや・・・一般的に可愛いって思うぐらいだな」

愛しているのは、お前だよ。
だけどね、傷ついて欲しくないって思うのは、先程助けた彼女だよ。

心の中で呟き、何度も繰り返し見る夢の続きを描く。
いや、続きなんてないんだ。
結局は俺の妄想、理想、幻想であって、終わった物語なのだ。

ただ簡単に言うと、かつての俺が守りたかった姫と、支え合った戦友と、愛していた恋人がいたってだけの、物語。
何の変哲もなく、ただそれだけ。
強いて言うなら、最後に戦で死んでしまったのでバッドエンド、悲恋と言うのだろうか。

再び今生で出会った恋人は性別は変わっていたものの、姫も戦友も性別は変わらず、俺の大好きだった彼らのままだった。

俺らの少し大きめな声で、近寄ってくる大きな身体を持った彼の人。

「二人とも、どうしたの?」

「先輩!こいつ、さっき女の子を―――」

楽しげに先程の出来事を話し始めるのを横目に、思考に身を任せる。

かつての戦友は、今は先輩で、敬語を使って、そう毎日は会えなくて。
少しぼんやりしてるのは変わらないね、男なのに花が好きなのも変わらないね。

かつての恋人は、今は男で、友人で、ほかの誰かを好きになって。
元気と威勢がいいのは変わらないね、だけど人見知りで怖がりなのも変わらないね。

想いは変わらず、現状は昔と変わり、関係も変わり、感情も変わった。
好きなのは変わらないんだ、だけど諦めが多く含まれてる。

「さり気無い気遣い出来るなんて、イイ男だねぇ」

「そんな褒めても何も出ませんよ」

「思ったこと言っただけだよー?」

「どうもありがとうございます」

「うわー!後輩が可愛くないよー!!」

ねぇ先輩。
俺があと一年早く生まれて、同じクラスだったらあの日の様に仲良くしてくれた?

思い出が、胸を黒く焦がしていく。
焦げた部分から臭いにおいが漂って、頭を麻痺させる。

呆けている間に先輩は予定があるからと去っていく。
再び取り残される前世の恋人たち、今生の親友たち。

「あー・・・俺男として意識されてないしなぁ」

「もっと積極的にいけよ。馬鹿みたいに元気なんだから」

「でもよー!なんかもうダメだ!」

「このビビりが」

「うっせー!」

元恋人の、恋愛相談。
面白くないと思いながらも、勝手に言葉を紡ぎだす唇。
嘘なんて、ばれさえしなければ何時だって真実であり続けると信じて。

なぁ親友。
少し嫌だが今度は俺が女に産れて、今お前が好きな女の子みたいな顔をしてたら、もう一度俺のこと好きになってくれた?

勇気を振り絞ってみると駆け足でどこかへ向かう親友。
背中を見送るが追いかけそうな足の軌道が勝手に修正されていく。

彼女が、俺の守りたい人が、そこに居る。
蜜蜂が現れたのか、やはり虫が駄目なようで逃げ回っている。

かつての姫は、今は逆に俺が敬語使われて、後輩で、何の接点も無くて。
虫が嫌いなのは変わらないね、少し面倒臭がり屋なのも変わらないね。

何の接点すらも無くなってしまったのに、知っている。
ストーカーじゃない、視界に入ってきて、彼女がずっと笑っているか見てしまうんだ。
綺麗で可愛いお姫様、陰で守りたいだけだから赦しておくれ。

大きな木の傍にあるベンチに座り、涼しげな風に身を任せる。
頬に伝う透明な雫は、風によって乾かされ、引きつる様な痛みを感じさせた。


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