空が綺麗だから

「このまま空に包まれたい」

そんなことを隣で嘯く奴にギョッとして首を動かす。
ただひたすらに空を見つめるその瞳にはいったいどんな空が広がっているのだろうか。

「何、お前自殺でもするの?」

おどけたように目の前の男に言葉を投げ出すと彼は腹を抱えて笑い出す。
そこまで馬鹿みたいなことも面白いことも言ったつもりはないのだけれども。

「んなわけねーじゃん」

「そりゃそうだ」

そんな会話をしている間も彼は空を見つめている。
倣って俺も空を見つめてみるけれど俺はただ「青」という印象しか思いつかない。
屋上で昼寝でもしようと二人で来たけれど結局あいつは昼寝なんてしなくて、俺も眠気が来なくて。
だらだらと過ごしていれば本当に空に消えてしまいそうな彼を見ることしかできない。

「蒼」

「なんだよ」

「お前は、綺麗だね」

「っ、はぁ?いきなり何言いだしてんだよ!?」

「名前が」

「・・・いろいろと紛らわしいぞボケ」

少し天然が入ったこの男は話す順番がおかしくて少しむせてしまった。
ゲホゲホと咳する俺に不思議なものを見る目でこちらに視線をやるけれど全てお前のせいだと言ってやりたい。

「蒼、空を見て」

「見てるよ」

空を向くように寝そべっているので視界にはそれはそれは広大な青が広がっている。
今更何を言うかと思うけど特に動くことはなく空を見つめていると右隣に居た奴がこちらに身を乗り出すように視線を向けている。
一体何がしたいのかと思ってもとりあえず口を出さずにいる。
すると奴は俺の目を覗き込むようにじぃっとこちらを見つめている。
これには流石にギョッとしてすぐさま手で追い払うような仕草をしたけれどその手をさっとつかまれる。
そのまままた空を見てときつめの命令口調で言ってくるのでずらした体を元に戻す。
文句を言いたいがとりあえずこの行動の意味を尋ねてみると俺には理解不能な返事が返ってくる。

「蒼の目に映る空が一番綺麗」

「なんだよ、それ」

「蒼の目って色素が薄いじゃん。だから綺麗に映るんだよ」

それに、と言葉を続ける奴の言い分に思わず拳を振り上げる。
本当にこいつの思考回路は同様の天然不思議系の人種にしか理解できないのであろう。
とすれば俺がこいつの言い分を理解できるわけがない。

相手するのも面倒だから目を瞑る。
目がどうのこうの言っていたから見えないようにすればこっちのもんだ。
それにこうすれば自然と眠気もきてくれるであろう。

そんなことを考えて少しどやっとした気持ちでいれば暖かな日差しを遮られた気配がする。
相手されなくなった奴がなんか適当に動いてんだろと放っておく。
腕とかを少しゆすられたけどもちろん起きてやるつもりなど皆無である。
更に内心どやどやと思っていれば―――

「蒼」

目元に柔らかな、けど少しカサカサと乾燥した感触がする。
びくっとしてしまったけれどこれで目を開けてしまえば奴の思うつぼだ。
あの感触がしたところが妙に熱くて仕方がなくて、今すぐ顔を洗いたいような気分だ。
それでも我慢我慢と自己暗示のように心の中で何回も何回も繰り返し呟いていればもう一度あの感触がして。

次には湿った何かが目尻を抉るように襲い掛かってくる。
これにはたまらず目を思いっきり開くと視界いっぱいにあの天然男の顔。

「おま―――」

奴の口づけによって俺の言葉は続くことなく遮られる。
軽いバードキスであったのですぐに離れていくけれど視界いっぱいに映り込むその顔は離れない。





「空が映る目もいいけど、お前の目の中に俺だけがいるのが一番いいな」





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