先輩と再会した。
僕が当時の世界で一番嫌いだった人。
僕のことが世界で一番嫌いだった人。
今はもう、まず先輩に感情も何も向けることはないけれど。
「初めまして、日向と申します」
「こちらこそ、相沢と申します」
宜しくと握手をする。
向こうは僕に気づいていないらしい。
ある意味嬉しいけれども、あんなことしやがったくせにのうのうと生きて嫌がるのは気に入らない。
しかし今はビジネスの場だ。いくら何でも変なことはしない。
「今回は新商品の――――」
プレゼンというか売り込みが終わるとよくある接待。
大企業とも呼べないけれどそこまで小さくもない微妙な我社と100人中99人は確実に知っている会社の相手。
今回の取引は絶対に逃すことのできない大きすぎる魚だ。
残業なんてしない主義の自分にかわり、こんな我侭な部下を支えて残業しまくりの上司にここらで恩返ししたいと買って出た役だ。
まぁ、あんな隈が濃すぎる中で大事な取引相手の前に出せないというのも本当の話だけれども。
わざわざ相沢の野郎の隣に座りお酌をする。
お酒を注いでやると向こうは0円スマイルの中々にムカつく顔をした。
ありがとうと言われていえ、と返してそっぽを向く。
正直にいえば今隣に座っているだけでもかなり辛い状況なのだ。
もう10秒でも顔を見てしまえば吐ける気がする。
なのにこの男は空気など全く読めていない様子で朗らかに話しかけてくる。
やっぱり他の子に任せればよかった・・・
「日向さんもどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
またもや営業スマイルで輝かんばかりの笑顔を向けてくる向こう。
それに合わせて酒飲む。
一気に飲んだことで勢いよく喉へ流れていくそれは奥で燃えるような熱さを催す。
「飲みますね。お酒は強い方なんですか?」
「えぇ、どちらかといえばですけど」
なんていうか今更だけれどもコイツが敬語使っているのマジキモイ。
そして空になったそれにまた継がれる酒。
こちらがお酌をしなければいけないのだがこいつは少し飲んで肴に手をつけて俺に注いでを繰り返す。
その為に僕が継ぐことは僕が3杯飲んだのに対して1杯の割合だ。
先程は酒は強い方といった。
実際にもう何杯飲んだかわからないくらいでも何とか意識を保てている。
しかし頭はクラクラで体は熱い。
「日向さん、大丈夫ですか?」
「・・・えぇ」
こいつに弱っているところを見せたくないと一瞬消えかかった意識を戻す。
「おい、相沢。そろそろお開きにするが」
相沢の上司と思わしき人が声をかけている。
それに何回か返事をして上司の人はどこかへ行く。
「日向、大丈夫か」
僕の上司も話しかけてくる。
大丈夫だと返事をしてこちらも何回か応答するとどこかへ行った。
自然と残された僕と相沢の野郎。
仕方がないけれどこの流れだと電車までは一緒なんだろう。
「・・・相沢さん、この近くの駅までご一緒しませんか?」
「えぇ、そうですね。この辺りの地理はあまり詳しくないものでありがたいです」
その言葉に席を立つ。
金は上司が払ってくれていたらしいのでそのまま出た。
外の空気が、冷たかった。