3



彼の家は裕福らしく、彼自身も株などいろいろしてマンションの経営もしているらしいから毎月多額のお金が自動的にたまる。
そしてそのお金を俺含めて様々な彼のお気に入りのために使っている。

僕の持ち物の半分は全部彼から与えられたもの。
荷物の整理の時に気付いた。

一番最初に俺が持って行ったのは制服やらパジャマやら数枚の着替えと財布に勉強道具、それぐらいだった。
それが、彼に外へ連れて行ってもらったときに洋服を買ってもらった。
そして次の週の週末には本屋へ行ったりゲーム屋さんに行ったりして、沢山買い与えてもらった。


これは、置いて行こう。
彼が残るものなど、俺にはもう必要ない。

そっと、今手に取った洋服をクローゼットの中へ戻す。
その時玄関からチャイムが鳴る。
俺は一回深呼吸をしてから扉の方へちょっとまってと声をかけてから立ち上がる。

大丈夫、笑える。
早くお別れをしなくちゃ、笑ってお別れを。

心に決めてから鍵を開ける。

「ただいま」

「おかえり」

言わなきゃ、早く、早く。
リビングの方へと行くと椅子に座る。

「ねぇ…お願いがあるんだけど」

「何?珍しいね、お前から甘えてくれるのは」

彼がいつもみたいに訊ねてくる。
何?の後のセリフに少し、泣きそうになりながらも言葉を紡ぐ。

「…さよならを、しよう?」

目を瞑る。
きっと彼からは肯定の言葉が聞こえてくるのだろう。
忘れたいけれど、忘れるけれど、彼の声を最後に一言も溢さずに受け止めたい。

「…いつから考えてたの?」

「先週ぐらいから」

「そう言えば、その時から荷物が減ってきた気がする」

「片付けしてたから…」

「何処に戻るの?まさかあの家?」

そうだと肯定しようとすると彼が勝手に想像を広げている。

「そんなわけないか…自分を傷つけた者の所に帰る程お前も馬鹿じゃないし。…なら、別の男か?」

「なっ…!!」

それはあんまりだ。
たとえ彼の言葉だろうと、そんなことを聞きたくなかった。
大体、男なんて彼以外無理だ。

「そんなわけない…!!」

「へぇ、じゃぁ女の方?」

「だから、俺は家に戻るから!!」

駄目だ、気持ちが高ぶりすぎてる。

「暴力振るわれに帰るの?それとも親父に足でも開くの?」

あんまりだ、それはひどすぎる。
泣かないと、笑ってさようならと決めていたのに。

「っ…違う…」

「駄目だよ、お前は此処に居なくちゃ。俺のなんだから」

やめてやめてやめて。

近づいてきた手を思わず払うと彼は一瞬動きを止める。
その隙をついて立ち上がり玄関の方へと行く。
ポケットには財布と携帯は入っているから大丈夫。

彼も、こんな俺には失望したと言ってもうきれいさっぱり忘れていくのだろう。



「何で…」

覆いかぶさる彼の体。
動きのとれない己の体、呼吸が止まりそうだ。

それから、何故か彼に抱えられソファーへと向かった。
勿論抵抗はしたのだが力では叶うはずもなく、無駄な抵抗となり終わった。

抱かれるのだろうか。
今の彼は正直何をするのかわからない。


しかしそんな己の想像とは全く違く、ソファーに座ると俺を足の間に座らせて肩に顔を埋めた。
彼は何も話さないし、俺にはもう話すことなどない。


10分たった。

それでも彼はずっと同じ体制。
寝てしまったのではないかと、胸元で握られている両の手を離そうとしても離れない。

20分たった。

まだまだ同じ体制。
彼の匂いが、染み込んでくる。
こんな至近距離にいるんだから仕方がないけれど泣きそうになる。

30分たった。

遂に30分。
彼は何も言わない。
俺も何も言わない。

40分たった。

もう、こんな至近距離にいて心臓がバクバクと煩い。
後ろから小さく笑い声が聞こえたが、それだけだった。

[ 3/28 ]

[前へ 目次 次へ]
しおり

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -