1 両親でさえも、隣の家の人たちも、学校の生徒みんなも。 僕のことが大嫌いだ。 それが僕の世界となり日常となるのに時間はかからなかった。 今日も今日とて時間は止まらずに。 時が経てばいつの間にか僕も高校三年生。 義務教育が終わったとて世間体を気にする両親は息子を高校に行かせないことはしない。 しかし邪魔な存在をいつまでも家においておくのは憚られる。 というわけで追い払われるように全寮制の学校へと閉じ込められた。 長期休暇には勿論家には帰らない。帰りたくもない。 一人きりで放課後の図書館へと行く。 この学校でも僕は嫌われていた…というより興味すら抱かれなかった。 いない存在として扱われる。 それは無駄にちょっかいをかけられるよりは心地よい立場であったのでなんの文句もない。 小さい頃から遊び相手もいなくて、親から与えられたのは檻のような部屋と本だけであった。 本を与えておけばいいだろうという考えだったのだろうか。 きっと、もう一生会うこともない人たちの考えを知りたいとは思わないしそれこそ興味も何もない。 そんな俺がすることは本から知識をもらうことと学校に入ってからは勉強だけであった。 ここの図書館は素晴らしいと思う。 たくさんの本がある。 そして生徒たちは興味がないらしく滅多にここには来ないからとても静かだ。 学校の運営方針として生徒の自主自立を目指すので図書委員会がここの管理をするらしい。 けれどもここに来て一回もそんな人を見たことはない。 数冊手にとって椅子に腰掛ける。 図書館が閉められる6時まで。 興味深いものであったら借りていこうか。 しばらくすると空も暗くなってきて帰ろうかと思う。 それなのに本から視線を外せなくて、その上眠気までが襲ってくる。 あ、やばい。 そう思った瞬間には体は思考を放棄し、睡魔に襲われて意識は遠のいていた。 ****** 目が覚めると時刻は既に8時となっている。 荷物をまとめて扉へと近づくも扉はもう閉まっていて。 窓から出ていこうかと思うが生憎身体能力は人並みで、まず此処は3階だ。怪我では済まされない。 たまに図書館で寝てしまうこともある。 しかし、それでも閉まってしまう前には起きて警備員が鍵を閉めに来る前には帰っていた。 まったく、なんてことをしてしまったんだと自分自身に憤る。 今は夏なので冷えが気になることなどないが寝汗が髪を湿らせていて気持ちが悪い。 シャワーを浴びたいなと無理な願いを抱く己に苦笑。 さて、室内にはクーラーと言う時代の画期的な発明品があるのでとりあえず良いだろう。 その前に窓を開けて一人でお月見でもしてようか。 あっという間に寮へ帰れない、シャワーを浴びれない状況に慣れてしまう自分に拍手。 窓を開けると涼しいとは決して言えない蒸れた風とが入ってくる。 そのまま視線を上へ向けると大きなお月様。 それと無数に散りばめられた宝石のような星々。 残念ながら自分は星について詳しくはないが、あれは夏の大三角形と言うものだろうか。 今度図書館で星座についての本を借りようと決意して空を眺め続ける。 煌めく星々を独り占めしたような感覚に、子供の時の無邪気な感覚も同時に蘇ってきて苦笑する。 まったく、いったいどれだけ前の話をするつもりだ。 そうは言ってもこの生を受けてから十数年しかたっていないのだけれども。 「綺麗、だな」 今まで個々の星々を眺めていたが天の川と呼ばれるものだろうか、本当に空に川があるようで面白い。 将来は星を調べる・・・なんという職業かは知らないがそのような職に就くのもいいかもしれない。 それとも星々を記録に収めるカメラマンにでもなってみようか。 どうせ、己には未来を縛るものなどないのだ。 戻る場所がないのは少しさびしい気もするが、何のしがらみも無いのは嬉しいものだ。 しおり |