深く眠ったまま目覚めぬ彼。
傷つき、恐怖に囚われたままの心を思うとやりきれない気持ちが溢れて苦しい。
「ずっと眠ったまま。暫くは教員用の寮で預かろうと思う」
「よろしくお願いします」
「で、一応調べた結果はこれに」
「ありがとうございます」
渡された書類には怪我について詳しく書かれてある。
腹部には打撲痕、手や足には縄の跡があり擦れて血もでている。
その他性的暴行により受けた怪我の記述もあり、思わず書類を握りしめてしまった。
今日はこのまま保健室で寝かせるらしいので先生は付きっ切り。
一回着替えと食事の為に帰るのでその間俺が見張りだ。
もしも起きた時過呼吸などの症状が出た時の対処法を教えて貰い、保健室は彼と俺の二人きりになってしまった。
起きた時に俺が居たら怯えさせないだろうか。
特別体格が良いわけではないが、小柄な彼にとっては恐怖だろう。
こういった時の為にもう一人連れてくればよかった。
「はぁ………どうか、早く元気に」
溜息しか出てこない。
彼が健やかに生活できるようになるまでどれぐらいかかるだろうか。
肉体は当然精神もやられているはずだ。
貰った書類を読んで時間を潰していると、布の擦れる音がする。
慌てて立ち上がれば、その音にさえ彼は悲鳴をあげた。
「はっ、…悪い。カーテンは閉めたままで大丈夫だぞ」
「………はい」
か細い声は震えていた。
なるべく優しい声を努めてそっと話しかけてみる。
「俺は風紀委員の藤下だ。安心してくれ」
「はぁ…」
そっと息を吐きだす彼は、暫くして信用してくれたのかカーテンを開け顔を出してくれた。
「無理はするなよ」
「はい。ありがとうございます」
「詳しい話は後日な。お前が一番大事だ」
「えっ…?あ、はい」
「それから、本当に申し訳ない」
頭を深く深く下げる。
救えなかった、守りたかった、彼のことを。
未だ震えるその声が、守る様に掛け布団を握りしめるその指が。
もう取り返しのつかない事態が起こってしまったのだと、否応なく知らされる。
「もうこんな事態にならないように努める。クソ共もきちんと罰する。お前が安心して生活できるように整備する」
「………はい。本当に、お願いします」
涙が溢れた。
揺れる瞳は深い悲しみを背負い、耐えきれぬまま雫が零れる。
そんな彼の姿に、目頭の奥が熱くなる。
ああ、後悔ばかりだ。
絶対に彼の笑顔を取り戻す。
「ぜってぇ守るから、楽しいこと考えてろ。な?」
「っ、藤下さん…!!」
ありがとうと呟いたか細い声を、忘れることはないだろう。