「クレーンゲーム以外やんねぇの?」
「やったことない」
あれからあてもなく、持ち歩くのに邪魔にならない大きさのぬいぐるみやフィギュア等をとっていた。
俺の部屋にぬいぐるみなんてあったら俺自身も周りも戦慄するだろう。
というわけで実家の妹に送るつもりなので大きさで選んで適当にとっていっていたのだ。
木更津は大体一回か二回ですぐに成功して、着々と景品を増やす様をニヤニヤと見つめていたので荷物持ちに任命した。
そんな俺に、ふいにクレーンゲーム以外のを勧めてきた。
まぁ流石に飽きたのだろう。
「やるぞ」
「え、だからやったことないって」
「やってみればいいだろ」
そう言ってさっさと他のゲームのとこに行ってしまうので、今やっていたのを急いで終わらせた。
例に倣って捕まえた景品は、ガコッとどこか間抜けな音を立てて落ちてきた。
慌てて追いかけていけば、まさかのプリクラの機械の前に奴はいた。
いや、だが最近は男だけの使用は駄目とかなんかあったし大丈夫、だ、ろう。
「店員さん」
「はっ、はい!」
「男二人なんだけどさ、いい?勿論変なことしないし」
「大丈夫です!どうぞご使用下さい!!」
「・・・」
そう、か。
イケメンってやっぱりなんでも許されるのか。
なんかもう、嫉妬とかじゃなくてここまでくれば感心の方が高い。
だが思わず遠い目をしてしまったのは仕方ない。
そんな俺の手を嬉々として繋いで、木更津は一番手前にあったところに入る。
なんか女の子のキャーって声とか聞こえてきたけど空耳だよな。
「・・・さっさとしろ」
「んな物騒な面止めろ」
「お前がこんなもんやるって言うから!」
「ほらあっち見ろ」
指差された方を見ればパシャっと軽快な音がして、画面に今撮られたばかりの写真が映る。
木更津が顔を寄せてきていたらしく、妙な距離感。
それからも後ろから抱き締めてきたり、果てにはキスをしてきやがった。
「・・・・・・・」
放心している間に撮影は終わり、落書きスペースに。
ふざけてハートのスタンプを押しまくる奴の背中を一回叩いて外に出た。
というかこのブースは、当然女の子ばかりで場違い感が凄い。
仕方なく落書きスペースに戻った。
「早く」
「可愛くしてやるよ」
「いらない!」
「ほらキスしたの」
そう画面を指差され、今度は頭を叩いてやった。
今はとにかくこの場所から離れたいとプリクラが出てくるのを待つ。
木更津?あいつは今逆ナンされてるよ、本当にふざけてる。
「でてきた」
「じゃあ俺デート中だから行くね」
何故騒ぐ、そこの女の子達よ。
「半分にすんのは後でいいだろ」
「ああ。兎に角早くどっか行く」
「藤下さん、デートなんだから楽しくやろうぜ?」
落ち着け、落ち着くんだ自分。
デートなんかこの一回だけだし、今後はもうない。
それにこのよくわからない関係は、きっと木更津のゲームが終わればすぐに消え去る。
それまでの辛抱だ。
息を深くはいて、荒む心をなんとか鎮めたのだった。