「反省文5枚。それで今回は見逃す」
「はーい」
「次は謹慎になる可能性もあるからな。以上だ」
作文用紙を渡してしまえばこれで終わり。
呼び出しから1時間遅れで来た木更津だけど、初犯なので大したお咎めはない。
「あ、そうそうこの間の」
「・・・は?なんだ?」
「俺と付き合って、藤下さんよ」
「断るっつってんだろ」
反射のように素早く答えて追い払う様に手を動かす。
この前も言ったはずだが、コイツの遊びに付き合う気などないのだ。
一応風紀室の中でも、更にその中にある取調室のような小さな部屋での会話だけど、すぐ薄い扉一枚向こうには他の委員がいっぱいだ。
なのでこんな話はすぐにやめて追い出そう、絶対すぐ追い出す。
「検討だけでもしよーぜ?」
「ちょ、てめぇ引っ張んな!」
しかし、先手を取るように風紀の活動時間中なのに連れ出されてしまった。
想像以上に腕を掴む力が強くて振り払うのが中々出来ずに、やっと手が離れたのは誰もいない廊下でだった。
ああ、書類がたまっているのに。
若干げんなりしながら、はやくこの男をどうにかしようと一先ず深呼吸。
「どういうつもりだ?」
「ん?愛の逃避行ってやつ」
「・・・」
流石にムカついたので目の前の腹に軽くだが一発いれてやった。
だが硬い腹筋が妨げとなり大したダメージなどなかったようで、へらへらと笑っていやがる。
「まぁまぁ、とりあえず屋上行こうぜ」
再度腕を掴まれて、あろうことか全力で走りやがったせいで俺も否応なしに走らされる。
この棟に普通の教室がない為に廊下で騒いでても目撃されていないが、この棟で活動してる人が居ないわけはないので見られるのも時間の問題だ。
ハラハラしながら、また風紀室に乗り込まれたり目立つ場所で接触を図られたりしては面倒なのでとりあえず従うことにした。
ああもう、美化委員の顧問、そこにいたじゃねぇか。
そうして辿り着いた屋上。
一名に俺と木更津が走ってるのを目撃されたけど、まあうん、取り調べとかそうゆうのだって勘違いしてくれるのを祈る。
というかコイツ平然と屋上開けてたけど鍵持ってんのかよ。
もう悪用されないためにも早々に回収しておこう。
「・・・で?」
「俺と付き合って、藤下」
「何度も言ってるが断る」
「えー・・・どうしよ」
身長差はそこまでないので首を20度程あげるだけですぐに目線が合う。
これ以上この茶番を続ける気などないのでしっかりと目線を合わせて拒否する。
そんな俺の態度に、流石にわかったのか考え込む。
たぶん罰ゲームとかなんかは知らんが、コイツも誰かに言われてこんなことをしているのだろう。
こんなに拒絶されても無理矢理付き合おうとするだなんて、そこまでの俺様ではないと信じた結果の予測だ。
「んー、じゃあさ、付き合ってくんないなら俺の同室、やっちゃうよ?」
「・・・は?」
「アイツとは一応上手くやってるけど、藤下が頷かないなら、ねぇ?」
「おい、お前一般人に手ぇだすなよ」
「だって、藤下が、付き合ってくんないし」
俺のせいにするな。
そう叫びたい。
今寮部屋は余りなどないので部屋の移動もさせられない。
一時的に友人の部屋とかに避難しても、同室なら同じクラスの可能性が高いしコイツの影響力ならクラスでの虐めにもなるかもしれない。
「・・・っち」
思わず舌打ちをした俺をニヤニヤとした顔で見る木更津。
その顔が近づいたかと思えば、ふいに合わさる唇。
そりゃもちろんムカつくし気持ち悪いけど、そんな初心でもないので、とりあえず侵入してきた舌を噛んでやった。
「てめぇ・・・俺は、あくまでもその同室のためにだな」
「付き合ってくれるならなんでもいいよ」
そう言って首筋をいきなり噛んできやがる木更津。
コイツ、動物かなんかか?
わりと冗談にならない強さで噛まれてて、本当に痛いのでとりあえず足を蹴って腹を殴ったが、今回は手加減なしだ。
ぱっと身体が離れたので、仕返しにその首に噛みつく。
コイツ首も太いと思ったけどこんなとこにも筋肉がつくのか?硬いぞ。
「・・・・・・」
「・・・なんだお前無言で笑うな」
「いや、っ、は、」
プルプルしてやがる。
どこでそんなに笑う要素があったのかはわからないが、とりあえずムカついたので頭を叩いておいた。