「・・・いい加減鍵を返せ」
「藤下くんのその鍵は合法ですかー?」
「・・・・・・・・」
なんてくだらない会話だ。
遂に明日、スポーツ大会が開かれる。
昨日まで必死こいて書類や会場整備、当日の進行について等を終わらせた。
前日は放課後に軽く最終確認するだけなのでもう大丈夫。
というわけで昨日までは昼休みも風紀室に籠っていたのだけど、今日は屋上に来ることが出来て大変満足している。
だがしかし、ここで一つ問題なのが木更津だ。
「屋上の鍵のことは忘れよ、な?」
「・・・寝る」
「本当にお昼寝好きだねぇ」
「ここは風が気持ちいいし、静かだし。すぐ眠くなる」
「俺も一緒」
隣に並ぶようにして寝転がる木更津はもう見ないことにして、この前のような失態は犯さないようにアラームの音量も上げておく。
それにしてもコイツもう寝てやがる。
隣で小さくだがいびきをかいてる横顔を少しだけ眺めてから俺も眠りについた。
アラームの音に勢いよく身体を起こす。
余裕をもって鳴る様にしたので昼休み終了までまだ時間はある。
まだ頭がぼんやりしているのもあり、もう暫くここにいることにする。
それは昼寝の後いつものことなのだけど。
「・・・あぁ・・・木更津」
そうして隣にいた木更津の存在を思い出し、揺すってみる。
一応でも授業に出るよう促すつもりである。
「んぅ・・・?」
「起きろ。授業に出ろ」
「・・・・うっせぇ」
寝起きは機嫌が悪くなる典型的なタイプらしく、鋭い瞳で睨んでくる。
眼光の鋭さは一級品で、少々怖いけれどそれよりも腰に絡みつく腕をどうにかしたい。
「腕、退けろ」
「あ・・・ぁ?」
「おい、俺はもう行くから」
余裕があるとはいえこんなことしてたら遅れてしまう。
寝起きで力が入らないからか、力を込めて引きはがすと簡単に外れた。
一応もう一度授業に出るように言ったものの、返事など無い。
小さく溜息を吐いて、持ってきた昼食のゴミを纏めて教室へ戻る準備をする。
よっこらせ、なんて掛け声使って立ち上がり軽く伸びをするとポキポキと骨のなる音がした。
「・・・明日、休むなよ。問題起こして退学にはなるな馬鹿野郎」
いびきをかいて、普段よりだらしなくかっこ悪いその顔を見ながら呟く。
寝ているしどうせ聞いてやいないんだろうけど一応でも。
反応が無いことなどわかりきっているので、そのまま屋上から立ち去る。
教室へと向かうさながら、明日のスポーツ大会のことについて考える。
一年なので、初めてのスポーツ大会でわからないこともあるだろうし、純粋にクラスの奴らと楽しみたかった。
だが選んだのは俺だし、やるしかないだろう。
風紀がここまで忙しいと知らなかったので若干騙された感はあるけど。
兎にも角にも、明日さえ終わればまた通常業務に戻る。
そしたら屋上ではなく沢山の木々が密集したあのお昼寝の場所へ行こう。
あれだ、緑は癒し効果とかあるんだろうしあそこで寝れば一発で回復するだろう。
そして俺は身体を動かすのも嫌いではないので、取り締まり以外の運動を楽しもうじゃないか。
俺も楽しみだし、きっと生徒達も楽しみだろう。
そうしていつの間にか辿り着いた教室の前で、木更津がちゃんと出席するかなぁと考えてしまう。
欠席だけだと単位が一つ貰えないらしいが、アイツ元々授業にもあまり出ないだろうからあんまり関係が無いのだろうか。
いやだがしかし、もし既に他の単位も落としてたりしたら。
ああもう、なんで俺がこんな心配してやんなきゃならねーんだ。