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密室に、二人きり。
好きな相手ならドキドキ、仲の良い相手ならまったり、なら出会って二回目の相手なら?
正解は涙腺崩壊。

「うっ、ふぇ」

泣くな、泣くな、みっともないぞ。
というか高校生でちょっと精神脆いからってさ、マジで泣きそうになるほどの眼光持ってるってこの人やっぱり軍行ってた方が絶対良かったよ。

「神谷郁、お前・・・って、おいなに泣いてんだよ」

「ひぃっ、うぅ」

声を掛けられた瞬間に悲鳴をあげるってのも最低だとは思うけど怖い。
どうして俺なんだ、眉を寄せて零れ落ちそうな涙を必死で止めるけど、ふとした瞬間にまばたきと共に雫が落ちていく。

「はぁ!?ちょ、どうしたんだよマジで」

「うっうっ、うぇぇ、ひ、っく」

泣いたせいで呼吸がままならず、しゃっくりが出る。
それまで鋭い目力で威圧(俺はそう思ってた)していたのを止め、慌てながら背中をさすって落ち着かせようとしてくれる。
だけど無理やり座らせて、さする手はただ単に力が強いだけだと思うのだけど、今の俺には恐怖でしかなくて。

「あー、どうすりゃいいんだ・・・」

「うっ、うわぁー」

「なんだー、その、俺が悪かった・・・?うん、悪かったから泣き止め」

何時まで経っても泣き止まない俺に、流石にオロオロしだした藤崎先生。
第一先生は何もしていないのにいきなり泣き出す俺が確実に悪いのだが、残念なことに涙は止まってくれず、必死で呼吸を整える。

そんな俺に気付いた先生は背中さする手を止め、頭を撫でてくる。
その動きが物凄く慎重で、不覚にも笑いそうになる。
頬が少し緩んだのを見た先生は強張っていた顔から力を抜き、大きなため息を吐くと俺は一体何をしたんだと聞いてきた。
ちょっとだけ待って貰って急いで呼吸を整えると、しゃっくりは多少出るものの漸く涙は止まってくれた。

「はぁ・・・すいませんでした」

「いや、泣き止んだならいい。とりあえず顔洗ってこい」

「はい・・・」

この部屋は一応用具室と言う名称らしいが、実質的にはこの部屋は藤崎先生の第二の私室みたいなものらしい。
どうやら藤崎先生は本当は他の学園に務めるつもりだったらしいが、この学園が優秀な教師が欲しく、金と一つ可能な限りで願いを叶えるという条件をだした。
それにまんまと引っかかった?先生は教師専用の寮部屋とは別に、学園内にも実験だったり実戦だったり出来るような個人の場所が欲しいと言ったらしい。
結果、学園は要望に応えた部屋を作ったが一人の教師を特別扱いしているのがばれたら面倒だと用具室という名称になったらしい。

というわけで簡易なシャワールームや仮眠室、一対一なら十分であろう戦闘室、はたまた怪しげな薬品が並ぶ部屋、分厚い蔵書で埋め尽くされた部屋などいろいろあった。
用具室がこんなに豪華な上、部屋の中に更に様々な部屋があるってどうゆうことだと思ったけどまあ、いいんじゃないでしょうか。

「そ、なんです、か。・・・あ、止まった」

顔を洗っても暫くしゃっくりが止まらなかったので、止まるまでこの部屋のことについて話して貰っていたのだが、ようやく止まった。
独り言ちる様に呟くと、耳聡い藤崎先生は早速とでも言わんばかりに本題に移ると言う。

「なんでそんな強い魔力制御の魔具を付けてるんだ?」

「あ、えと・・・」

この魔石自体はありふれたもの、というわけではないが普通に出回ってるものだ。
それこそ軍の人は激しい戦闘の後など、疲れて簡単な魔術を使っただけでも力が暴走する場合もあるらしいので身に着けているらしい。
藤崎先生も軍から推薦を貰ったとの噂なのでそこら辺は詳しいのだろう。
まぁ属性制御なんてものは普通の人は使わないから知らないみたいだけど。

とはいっても一族のしきたりで他人に先祖からの恩恵の話はしないってのがある。
フィリアは精霊だ、だいたい力が欲しいのは人間だけだから例外。

質問に答えるにはどのようなものが穏便に、かつ秘密を口外せずにいられるか。
それが重要な鍵となるのだが残念ながら口下手な俺には語彙力など無い。
逃げるか、いや魔力制御しているんだSレベルの相手に敵うわけないし。

うわーどうしよう、絶体絶命?また涙出そうだよ。
大体この人俺が泣いたおかげで今は意図的にあまり目を合わせなかったり、ゆっくり喋ってくれたりしてるけどさ、落ち着いた俺を見て鋭い眼光が戻ってきてるんだよね。
もうやだやだ、怖い。

「・・・・うっ」

「おーい、ちょ、また泣くのかよ・・・」

怖いって思ったらまた目尻には涙が浮かんできて。
さっきよりは酷くないけど静かに頬を濡らしていく雫。

呆れたように溜息を吐かれ、びくりと震える肩に手を置いてくる藤崎先生。
囲い込まれているようで威圧感がやばい、今日は涙の大放出デーなのかもしれない。
更に先に零れた雫を追う様に溢れる涙が流れ落ちる。

恥ずかしいし先生の顔怖いしで、顔を手で覆うと、すぐにその手は取り払われる。
何とは無しな行動だけど、やっぱり怖いしで本当に涙腺決壊してる。

「なーくーなー」

「うぅ、・・・っあ」

取り払うために掴まれた手を他所に、鼻をずびずび鳴らしていると、そのまま先生の胸元に顔を押し付けられた。

「心臓の音聞くと落ち着くってどっかで聞いたんだが・・・どうだ?」

「うっ、うわぁーん」

「ええ!?効果ゼロかよ」

怖いのは先生なのに、慌てているせいか少し早い鼓動を刻む先生の心の音に安心感を得ているのも事実で、嬉し泣きと呼べばいいのか、安堵から更に涙があふれる。

困ったようにつむじや額にキスをして、慎重に背中をさする手。
俺は泣き疲れたせいもあるのだろうか、そのまま静かに眠りに落ちた。



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