1 取り分け何もすることのない夕方の少し冷たくなった風が開けたままの窓から入ってくると、静かに髪を揺らす。 隣に座っている、眠りに落ちた紅の膝に置かれた読みかけの本がパラパラと捲れ、これじゃあどこまで読んだのかわからないな、と小さく笑う。 そろそろ夕食の時間だからとそっと頬にキスをしてからキッチンへと向かった。 紅と出会ってから自分で料理を作ることが多くなったのでそれなりに手際も良くなった。 今日はミートソースのパスタとサラダ、コンソメスープを作る。 ワインはどれがいいか迷ったが、俺は全くそうゆう知識がないので紅に選んでもらおうと、未だにソファーで寝ている紅の下へ駆け寄る。 「紅・・・こーう、起きて?」 「んぅ、透?」 「そうだよ!ほら、夕飯冷めないうちに食べてよ」 「ああ」 上から覗き込むように声をかけていると首の後ろに腕が回り、引き寄せられて軽いキスをされて、思わず二、三回目を瞬かせる。 その後俺からも唇に口付けるとようやく焦点が定まった紅が立ち上がる。 「紅、ワイン選んでよ。俺は飲まないからわかんないし」 「たまには飲んでみたらどうだ?」 「いーよ、あと5年後ぐらいで」 そうかと小さく笑いながら言うとそのままワインを選びに行く紅。 俺は綺麗に盛り付けたお皿をテーブルまで運び、ワイングラスを一つだけ用意して自分はグラスに冷茶を淹れた。 ワインを持ってきた紅からそれを受け取りグラスに注ぐと濃い赤色で満たされる。 いただきます、と言いパスタを口へ運ぶ紅は相変わらず様になっててカッコイイ。 俺はそんな紅を眺めながらも料理に自己採点を付ける。 今日は俺的には結構美味しかったけど紅はどうだろうか? 「紅・・・」 「ん、美味いよ」 「ありがと」 そっと呼びかければ、まるで最初から質問内容をわかっていたかのように俺の欲しかった答えをくれて、擽ったい気持ちになる。 紅はけっこう素直で、味が濃すぎたりするとすぐに言ってくれるのでもう好みはほぼ完璧に把握したと言っても過言ではないだろう。 ワインを飲むときに動く喉仏が艶やかで思わず見惚れるのは今日で何度目だろう。 こんな俺の状態はもうお見通しらしい紅が更に色気を含んだ笑みを浮かべる。 「紅ってさぁ、なんでそんなにカッコイイの?」 「さぁ、遺伝じゃねーの?」 「それにしたってかっこよすぎるでしょ!!」 「お前が上手い飯作ってくれたり飯になってくれてるから、もあるか」 「褒めたって何も出やしねーからな」 「決まり文句だな。・・・なぁ透」 もう何度かした会話を繰り返すと、テーブルの上に置かれていた俺の手の甲にその長い指先で撫でるように触れる。 その指使いに込められた欲望がありありと感じ取れて思わず引っこめようとしたが、すぐに手を取られてその口元へと持っていかれると柔らかい唇が落とされる。 「・・・いいよ、でもちゃんとお風呂入ってからね」 「わかってる」 その後も談笑しながら食事を再開したが、少しだけ急いで食べたのは言うまでもない。 紅が先に風呂に入ることになり、その間に皿洗いをしてリビングを簡単に片づける。 今日は天気が良かったのでシーツや枕カバーまで洗濯できたが早々に洗いなおさなければならなくなるのか。 自然と赤くなる頬を感じて、深く息を吐きだすとちょうど紅が風呂から上がったようだ。 俺もとパジャマとタオルをもって風呂場へとかけていった。 風呂に入る時は邪魔だからと指輪とネックレス、腕輪を外す。 体や髪の毛を洗ってから風呂に入ると暖かいお湯が溢れてしまい、それを眺める。 「ハァ・・・うぅ、頑張るぞ」 嫌じゃないのだ、別に。 身体を求められるのは嫌いじゃない、むしろ好きだ。 血を吸われているだけなら俺は捕食対象なだけかと悩むところだが、紅はちゃんと俺を好いていてくれてるってわかるから。 何を頑張るかと言うと、紅はその、意外と性欲が強い方である上に行為中に血も吸ってくるため意識が飛びそうになるのだ。 回数はまあ本人曰く控えめだそうだから文句は言わないが、最後までちゃんと意識を保って紅を見ていたいのだ。 というか後始末を気を失っている最中にされるいたたまれなさもあるけど。 よしっ、と気合を入れて湯船から上がると清潔な白さを持つタオルで身体を拭き、洗濯したばっかりの手触りのいいパジャマに着替える。 指輪などの宝具は面倒だからつけなくてもいいだろう、と纏めてケースに入れるとゆっくりと寝室まで歩き始めた。 しおり |