偽装工作

「時雨君、今日のお弁当よ」

「いつもありがとうございます、透子さん」

「いいのよ!あ、そう言えば先日お友達からお菓子を貰ってね」

良かったら食べて頂戴と言われて渡された、綺麗に包装された、いかにも高そうでブランド品だと思われるロゴの入った箱。
こんなの貰っていいのかと思ったけれど、息子も主人も甘いものは嫌いでもない、だが好きでもないと愚痴っている。
そんな透子さん自身はこの前健康診断で一つひっかかってしまったらしいので、今は甘いものは制限しているとのことだ。
こんなに若く見えるけど、やはり先輩産んでるんだからお歳は召されてるんだよなぁ。

「お弁当にお菓子まで・・・ありがとうございます」

「ふふ、時雨君は甘いもの好きでしょう?やっぱり好きな人が食べたほうがいいわ」

透子さんに別れを告げ、今日は屋上で食べようと決める。
そのままいつの日か先輩にもらった鍵をつかい、屋上に行くと少し冷たくなった風が頬にあたる。

早速弁当箱を広げると、最早当たり前にと言っていいのか、綺麗に敷き詰められたおいしそうなおかずの数々。
いくら体格が小さかろうが、動かないからお腹があまり減らないことが多かろうが、所詮男子高校生の胃袋はブラックホールであるのだ。

箸を取り出して軽く両手を合わせるとすぐに胃の中へと押し込んでいく。
勿論味わうことも決して忘れはしないが。

全て食べ終わり、緑茶を飲んで一息つく。

「美味かったー・・・」

「それは良かったねー、かーさんも喜ぶよー」

「っわ、先輩!驚かないでくださいよ」

「あ、コレなにー?」

「透子さんに頂いたんですよ。先輩も食べます?」

まぁ元々は透子さんの、五十嵐家のものだろうが今はもう俺のものだ。
別にあげないとか意地悪はしない。
だって後が怖い。

「いいやー、時雨甘いの好きでしょ?」

「それ透子さんにも言われました」

でも、よく考えてみれば甘いものが好きだなんて透子さんに言ったことあっただろうか。
甘いものが好きだとは言え、菓子パンはあまり好きではないので昼食で選んだこともないと思われる。
菓子パンよりは食パンが好きというのは甘いもの好きとしてはおかしいと言われるかもしれないけど、パンに甘いものを合わせるんじゃない、元々甘いものとして作られたものが好きなんだ。

とまぁ自分のよくわからないこだわりはどうでもよくて、透子さんと甘いもののお話しをしたことあっただろうか?
担任の斉川と甘いもの談義、もといただのティータイムという名のサボりでは、甘い物嫌いの人がいたならば吐くぐらいにはずっと話しているけれど。

そんなことも紙を破り捨て箱から出てきた美味しそうなチョコを見た瞬間にはどうでもよくなってしまったのだけど。

「んー、んまい!ホント透子さんにはありがとうって伝えといてくださいね」

「ハイハーイ。美味しそうに食べるねー」

夢中になって食べていると、ふと風が吹いた。
風自体は先程から吹いていたと思うのだが、強風と呼ぶべきか妙に敏感に感じてしまう。
それでも気にせず5つ目のチョコレートを口に投げ込むと少し頭がクラクラする。

「は、っん」

まるで風邪を引いたかのように風が少し吹いただけで、物を触るだけで肌が。
揺れ動く視界のなかで、平衡感覚が狂い小さく漏れた声と共に倒れ込む。
そんな俺の肩を引き寄せる先輩の膝に寝かされた。

「あぁー・・・せんぱ、気持ちい、」

「そっか、寝てもいいよ?」

「勿体無い、よ?」

「じゃあおしゃべりする?」

「はーい」

なんだかフワフワした気分で返事をする。
髪を撫でつける手が頬に移り、眦から頬を行き来するので、それに頬を押し付ける。
大きな手から伝わる温もりが気持ちいい。

「時雨好きだよ」

「俺もね・・・せんぱ、好き・・・だいす、き」

先輩の腰に手を回してぎゅーって抱き付く。
硬い腹筋が当たり思わず赤面してしまい、さらに力を強めて抱き付いた。

なのに先輩が顔を掴んで引き上げる様に上を向かせて来る。
恥ずかしかったので目を瞑ったら、先輩が顔を近づけてくるような気がしたので、思わず薄らと目を開けて尋ねる。

「・・・ちゅう?」

「ん、そだよ」

重なる唇に思わず笑ってしまう。
先輩も笑っているのか、ふっ、なんて声が聞こえて来て、腰を掴まれて胡坐をかいた先輩の太腿に座らされる。

目を開くと、ちょっと意地悪な、だけど優しそうな目がこちらを見ていた。
もう一度唇を重ねると、視界の揺れが激しくなって、意識が遠のいた。





「あら、義之!どうしたの?」

「母さんこそ」

「私はもう帰るところよ。あら、時雨君、は寝てるの?」

「ん。チョコ食ったら寝たから保健室連れてく」

「でも義之、あなた時雨君はお酒大丈夫で甘いもの好きだからあのウイスキーボンボンのチョコレートあげたらって言わなかったかしら?」

「俺は甘いの好きだって言っただけだよ」

「そうだったかしら・・・?まぁいいわ、じゃあ授業も部活も頑張ってきなさい。あ、夕飯は家で食べるわよね?」

「今日練習試合だから多めにね。じゃ、気を付けて帰って」


偽装工作
(完璧に作られた振付を貴方の掌で踊るの)





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