2 指が、そっと顎へかかる。 反射的に身を捩りその指先から逃げようとすると、奴は特に何をするでもなく、かと思えばいきなり僕の身体を抱きかかえてきた。 暴れようにもここで落とされても、縛られている身では上手く受け身を取れずに怪我をする未来しか想像できない。 「・・・・・」 「うん、大人しくしてイイ子」 言葉と共に急に放される身体。 落とされた先はベッドの上であったので怪我等はないものの、一瞬の浮遊感に対する恐怖で鼓動が速まった。 そして未だに一糸乱れぬスーツを脱ぎ捨て、ネクタイに手をかけ首から外すと、そのネクタイを持ったまま近づいてくる。 逃げ場のない僕は、それでも後退して距離をあけようとするが、すぐに肩を掴まれネクタイで目隠しをされてしまう。 「外せ、くそ!」 「なんで?怖いの?」 「何する気だよ・・・」 視界が遮られたことで奴が何処にいるのかわからない。 声を頼りに推測はするがそれはあくまでも勘で確定されたものではないのだ。 己のネクタイは既に腕を拘束するものとして使われている。 ベルトを外された瞬間、感じたのは確かな恐怖で、暴れるしかない。 話しの通じる相手ならまだしも、このようなことを平気でする男、しかも今は腰辺りに乗っかられているので自由な脚さえも緩いバタ足のような動きしか出来ない。 「は、このまま犯してやるのも楽しいかもね」 「ふざけんなっ!この愉快犯!!」 「愉しむことの何が悪いの?それに、俺はお前のこと別に憎んでも嫌いでもないし」 きっと奴は嗤いながらそれをするのだろう。 何よりも大切な自分が楽しむという目的を達成するための手段は厭わない。 服を脱がされる時に、邪魔だからと腕の拘束を解かれたが脱がされると共に再度拘束されてしまい、反撃の機会を失ってしまった。 室内には適温の風が暖房により吹いてくるのでシャツを脱がされようが、防寒のためのヒートテックのインナーを脱がされようがさして肌寒いわけではない。 それでも恐怖にぞわりと鳥肌が立った。 下肢を覆う衣服は取り払われず、それだけはまだ良かった。 だからと言って安心など出来ない現状、悔やみ、下唇を噛む。 脇腹をそっと撫でてくる指先は、身体の線をなぞる様に、そして皮膚に覆われた骨まで触れてくるような嫌な感じがする。 戯れに胸の飾りをボタンを押す様に指を押し付けたり、喉仏を軽くだが押され、潰されそうな感覚さえ味わう。 「っ」 「ね、やっぱり怖い?手足は満足に動かせないで、目も見えないってのは」 「お前が、一番怖いから・・・そうでもない」 「へー、ホント素直になったね」 そうは言ったって、言葉遊びをしようにも勝てないのは目に見えてる。 力も敵わないし更に言えば拘束されている状態、どうすればいいのか。 じわりと滲む涙を零さぬように目に力を入れて耐える。 相沢のネクタイは上質な素材を使っているからか、きつく結ばれているが痛くはない。 それにこんな泣きそうな顔も見られないからある意味助かったのかもしれない。 相沢の手は止まらないし、その指先には明らかにそうゆう意味も含まれてきた。 それを明確に表現するようにズボンに指がかかり、下肢から衣服が取り払われた。 「や、めろっ!くそっ、ふざけんな・・・」 「処女じゃないんだからー。俺にもう奪われたでしょっと」 恐怖や嫌悪感からか何の反応も示していなかった自身も外気に晒され、そして突き刺さる視線に緩々と勃ちあがるのがわかる。 腰に感じていた重さは何時のまにか太腿に移動しており、相沢は今太腿に乗っかかっているのかと、さらに動かしにくくなった足を動かしてみる。 少しも宙へ浮かない脚が平静を奪っていく。 「見られて感じちゃうんだ」 「はっ、んなわけ、ないだろ」 「そう?もう濡れてるし、ねえ?」 既に完全に勃ちあがっているそれの先端を撫でられる。 少しだが油断していたのでその刺激は凄く、嬌声が漏れてしまう。 「このままヤっても良いけど、もう眠いなぁ」 「なら、さっさと家に帰せ!」 「これどうするの?」 「すぐおさまる・・・はず」 本格的に眠くなってきたらしい相沢。 飲んでる時は酒に強そうだったが時間差でくるのだろうか。 それに家に帰った安心感も重なり、呑気に欠伸をしている声も聞こえる。 「あ、じゃあ俺の手かすからさ、自慰していいよ?」 「そっ、なことするか!馬鹿野郎」 「そしたら今日は一先ず終わるけど?俺も眠いし」 終わる、その言葉が少しだけ、少しだけ魅力的で。 こんな風に話してたら収まると思っていた熱は視線や戯れに触れる相沢の指に、そう易々と引いてはくれない。 太腿から退いた相沢は僕のモノに指を絡ませ、そこで動きが止まる。 そんな状態で暴れればそれこそ自慰しているようでなにか行動を起こすことも阻まれる。 「もー、やらないなら俺が頑張らないとなぁ」 「なに、する気だよ」 「だから扱いてやるって。イかせてはやらないけどね」 「やめ、て・・・頼むから」 「じゃあ自分で、な?」 その言葉に、強情な自分はやめろと言うけれど、心はもう楽になろうよと言う。 俺だってもう嫌だ、なんで今更コイツがとか思う。 でも、解放はしてくれないのだろう。 ゆっくりと、腰を動かす。 絡みついた相沢の指は、まるでイイ子とでも言うように先端を抉ったり玉の方を揉みこんだりして来る。 自分で腰を動かさなくてもいいじゃないかと思うけど、決定的な快感はくれない。 だから、自分で動くしかないのだ。 本格的に涙があふれてきそうで、所々漏れてしまう己の声は啜り泣くような感じで恥ずかしいし悔しい。 それでも昂った欲は解放を求め、僕も自然と動きが速まってしまう。 こんな浅ましい自分は嫌だと思いながらも、相沢の手に熱を押し付けて、イった。 しおり |