1 それは、何といえばいいのだろうか。 本当に一瞬の間で、気が付いたら木の上に居て、それからそれから。 「えと、・・・えぇ?」 「状況がわかんねーのか?は、まぁいい」 「いやいや、良くないですよ」 俺が正確に覚えていることと言えばなんだろう。 今日は天気が良かったので外で正樹たちと飯を食っていて、焼き菓子を入れてた袋が風に飛ばされたので走って追いかけて・・・そこから俺は捕まったんだろうか。 「お前妙にいい匂いするんだよなぁ」 「そんな、知りませんよ。それに俺契約してますし」 今日は、午前授業ですぐ帰れるのでネックレスと腕輪、指輪をしていなかった。 通常、それでも足に付けられた宝具でとても美味しそうな匂いとやらはまぎれる筈だが、力の強い吸血種には足首のものだけでは効かないらしい。 自分の所為だが、朝支度してた時に指輪ぐらいは付けとけと言ってほしかったよ、紅。 「でもお前、指輪してねーじゃんか」 「料理するのに邪魔で・・・」 「んな言い訳きくわけねーだろ」 まぁ、まだお話しを聞いてくれるだけ有り難いと言えば有り難いのだが、話を信じてくれるぐらいもっと優しい吸血種が良かったな。 なんて、まず捕まるなよと言うツッコミが何処からか聞こえてくる。 「いや、ほんとなんですよ」 「どちらにせよ関係ねーし」 「・・・まだ死にたくないんですけど」 「はいはい、いただきまーす」 ここでまさかの無視か。 いや、そうじゃなくてこれはやばいぞ。 なんて思ってる間にシャツのボタンが外されて肌が晒される。 咄嗟にその腕を掴むと逆に俺の腕を掴まれ、見せつけるように口元へと運んでいく。 そうだ、いつも紅には首元の血を吸われてはいるけど別に首じゃなくてもいいんだ。 思い出して必死に暴れるのだが、やはりと言うべきか力では敵わない。 体格は同じぐらいなのに、とじわりと涙が滲んできた。 「紅」 助けて、お願い。 願いもむなしく肌に触れた牙に悲鳴を上げると、そのまま血が流れ出す。 それを舐めとる目の前の糞野郎がさっさとくたばってくれるのを待っているのだが、一瞬止まったものの一向に倒れない。 もちろん、今までの事を考えればあの黒く染まった肌を見たくはない。 悲痛な叫び声を上げ意識を失い黒化していく皮膚、あれは軽くトラウマものだ。 「ゃ、め・・・」 赤く染まっていく口元に赤い舌。 背筋に悪感が走るとともに放される腕。 「え?なに、」 何故か倒れていく目の前の吸血種、そして唐突に感じる温もり。 「透、ごめんな」 「っ、遅い!!」 「ああ。もう少し早く気付ければ良かった」 先程のように恐怖によるものではなく、安堵した心によって涙が滲む。 こんなにも安心できる温もりを、俺は紅以外に知らない。 「紅様、透!!」 「シア?どうしたの」 「くっ・・・すいません、紅様」 「そうだな、黒羽にコレを回収して貰うように言って来てくれ」 「了解いたしました」 俺の問いに答えることなく、紅の命令によって来てすぐに何処かへ行ってしまったシア。 友達の顔を見るってのも与えられる安心感が凄いなぁと思ったのに。 「えと、シアはどうしたの?」 「血の匂いがする。まだ外だから良かったけどな」 「あー・・・そうだった」 「早く部屋に戻るぞ」 そのまま抱きかかえられて、紅の身体にしっかりと腕を回す。 その瞬間に黒羽さんが表れてびっくりしたけれど、この温もりを離す気は無い。 黒羽さんはいつもと変わらぬ声だけれど、どこか沈んだ声で謝ってきた。 きちんと守れなくてすまない、なんて本当に優しい人たちだな。 しおり |