君色依存症 焼き上がりを知らせる音が鳴り、ソファーから立ち上がるとキッチンへ向かう。 オーブンから取り出すと良い香りが辺りに漂い、自分を内心で褒める。 「紅、綺麗に焼けたよ」 「へぇ・・・パンって自分で作れるんだな」 見て見てというように手招きすると、紅はすぐに来てくれた。 ドヤ顔でふっくらと美味しそうに焼けたパンを見て、その後俺の顔を見るとキスしてくる。 「紅っ!」 「いや、可愛かったから」 キス自体は別に、嫌じゃなかった。 でも不意打ちでされるのは本当に恥ずかしくて、持っていたパンを落としそうになったので一応咎めるように声をかける。 だと言うのに強気な笑みを浮かべて、聞いてるだけで恥ずかしくなる声を使い俺のことなんかを可愛いと言うのだ。 頭がおかしいと言えばいいのか、ありがとうと感謝すればいいのか。 前者はただの捻くれた感情なのでまあいいが、後者はなんか違う。 そこで、お腹が空いていたのを思い出して盛り付けに取り掛かる。 パンを作ってる間にさっと作った料理と共に先程焼き上がったパンを添える。 焼き菓子はたまにだが作るのできっと大丈夫だと挑戦してみたが、どうだろうか。 じぃっと紅を見つめていると、パンを手に取った紅が一口かぶりつく。 俺も、さっさと食べればいいものを、ひたすらパンを指で突っつくと言うなんとも食べ物に失礼な行動をし続ける。 「美味いな。透、お前もさっさと食えよ」 「わかってるし!・・・あ、美味しい」 普段、自分で作った料理を自己採点するものの声には出さない。 だけど今日は普段しないことをしたせいか、つい自画自賛のようなことを言ってしまってちょっと恥ずかしい。 少しだけ熱くなった顔に気付かないふりしながら口にパンを詰め込む。 案の定喉に詰まってしまって余計羞恥が増倍した。 そんなこんなで意味不明な呻き声をあげていると、何故か身を乗り出した紅に顎を掴まれて、気が付いた瞬間には唇が重ねられていた。 「お前が一番美味いけどな」 わざとらしく唇を舌で舐められて、更に深いキスを求められているのかと、ならば応じねばならないと身体は教え込まれていて。 口をそっと開いた瞬間、何故か離れていく紅の身体。 意識が戻った時には間抜けにも口を開いたままの自分と、普通に食事を再開してる紅。 完全にからかわれたと臍を曲げながら自分も食事を再開する。 それでも、男子高校生ってのは一度火を付けられたら鎮静するまでに結構な時間を必要とするもので。 何時の間にか食べ終わり、皿を片付けると皿洗いをする。 冷たい水に晒された手から冷えて落ち着いていく精神に心地良さを感じながら、落ち着いた精神で紅が欲しいと感じた時の感情を思い出すと火が再び燃え上がる。 もう仕方ねーななんて、まったく仕方がないと思わないままにソファーに居る紅のもとへ足早に向かうとそのまま抱き付いてみた。 驚いた紅だったけれど、読んでいた本を脇に置くと抱きしめ返してくれた。 「来週はどこか行くか?」 「でも、黒羽さん達が護衛大変じゃない?」 「たまにはいいだろう。それに疲れた嫁を癒すのが旦那の仕事だろ?」 「・・・今栄養補給してるよ」 鎖骨辺りに額をぐりぐりと押し付け、逞しい胸筋に頬を寄せながら心音を聞く。 それと同時にさり気無く腕の筋肉や腹筋なども触りながら、鍛え抜かれた身体にときめいてしまうのは、最早中毒症状。 硬いなぁ、なんて自分と対比して少し悲しくなるけれど人並みにはあるから大丈夫だと自問自答のように頭の中でぼんやりと考える。 「嫁さんと四六時中一緒って、本当にいいよなぁ」 「飽きない?」 「だから、俺の嫁はお前だろ?なら飽きるわけないだろ」 「・・・紅っ、大好きー!!」 「はいはい、俺も」 戯れにつむじ部分に唇を落とされ、そのまま体全てを包み込むようにさらに深く抱き込まれれば隙間なんてものはなくなって。 顔だけを上げれば唇が額、瞼、鼻頭、頬に触れてくる。 少しかさついたソレだけど、なんかもう兎に角愛しいと言う感情しか生まれない。 唇にゆっくりと紅のが下りてくる前に、俺から勢いを付けて押し当てる。 先程されたように唇を舐めてみると、少しキョトンとした紅が見れたので調子に乗ってしまうのは、人間の性か、それとも俺の性癖か。 異常ではないと信じながら、紅に対する行動すべての原因に当てはまる愛情という機動力によって、大胆になる行動、自分から紅の口の中へ舌を侵入させてみる。 だが、色事の最中でもしたことのなかった行為なので、侵入してみたもののそこで動きが止まってしまい、最終的には逃げるように唇を離す。 「っ、なんか言ってよ」 「・・・愛してる」 何か言ってくれと言うのは、この後味の悪い雰囲気を一変させてくれる一言を求めていたのだが、むしろ自分の脳みその活動を一時停止させるもので。 数秒固まってしまったものの、とりあえず俺も愛してるよと伝えようと口を開く。 言葉が紡がれる前に重ねられた唇に目を開くと、何とも言えない表情をした紅。 それがどうしようもなく愛しくて、覆いかぶさってくる背中にそっと手を回した。 君色依存症 (飽和愛心、されど乞う) しおり |