室内温度

※時系列的には第一章の十八話あたりの二回目の軟禁生活です。

冷蔵庫を覗き込み、お昼の献立を考える。
中身の少ないそこには肉や魚と言ったメインになる食材は一つもなく、では野菜ぐらいはあるのかと言われれば答えるのも難しい。
いや、実際に少しはあるものの、プチトマトに茄子だけしかない。
他にも探してみるが、調味料の類や卵が三つ、あとわかめがあっただけだ。

「んー・・・」

「愛子よ、買ってくるものは?」

「もうちょい待ってて下さい。んー・・・一人分ってなぁ」

只今絶賛軟禁生活を送っている俺は、昼は紅たちは学校に行ってるため一人で昼飯だ。
黒羽さんも食べてくれたらいいのだが、仮面の関係で無理らしいし、一応任務中なのだから仮面が無くてもダメなんだろうけど。

「あー、もうカップラーメンでいいいか」

「体に悪い、それはダメだ」

「・・・なら何時間も俺の警護について飯食ってない黒羽さんもダメだよ」

「それとは話が別だ」

きっぱりと言い切られてしまったので、仕方なく再び献立を考える。
最近夕飯は紅のリクエストで肉ばっかりなので、今日は鯵の開きにでもしよう。

「鯵の干物とレタス、小松菜、ベーコン。あ、あと箱ティッシュも買ってきて下さい」

「了解した」

「じゃあよろしくお願いします」

お金は理事長が払ってくれてるみたいなので、俺は買ってきてほしいものを言うだけ。
なんだか申し訳ないけど、軟禁されてるのも自分の所為だけど、まあ厚意でしてくれているし、家計的には助かるので有り難い。

それから暫くして帰ってきた黒羽さんから袋を受け取る。
昼間は基本一人は俺の部屋に待機してるので黒羽さんはそのまま部屋に入ってきた。
結界はって部屋の前やベランダに監視カメラまで付けられてるけど、それでもまだ心配らしいのだ。

最初に小松菜を適当に切って、塩ゆでするために鍋に湯を沸かす。
それを黒羽さんに見てて貰いながらフライパンを温めて干物をそっと置く。
油は魚から出る油で十分なので、そのまま暫く放置。

「本当に手際が良いな」

「そう?慣れですよ」

「そうか」

それにしても黒羽さんは、常に仮面をしている上に全身黒い衣服に重装備を付けて大変そうだし重そうだ。
俺が花嫁じゃなければ絶対に会うことのない人たちなんだよなぁ。
そう思うと何だか感慨深い。

「どうした?手が止まっているぞ」

「あ、やべ!」

慌てて魚をひっくり返すと、いい感じに焦げ目がついていて、食欲を刺激する匂いが漂ってくる。
こんな美味しそうな匂いがしても、俺が一人で食べるなんて申し訳ない。

「・・・いつかは絶対に俺の手料理食べてくださいね」

「うむ、期待している」

「美味しいの作りますから」

期待してる、の言葉で嬉しくなる。
社交辞令的な意味合いが強いんだろうけど、いっつも守ってくれてる黒羽さんに何かお返しができると思うと、腕がなる。

出来上がった料理をテーブルで一人食べているのは寂しい。
それでも、キッチンで使った用具を片付けてくれてる黒羽さんがお話ししてくれる。

「あー、今日の夕飯何にしようかな」

「愛子の作ったものなら何でも美味いだろうな」

「・・・へへっ」

「どうした?」

「いや、別に?」

広い部屋の中に、二人きり。
紅には少し悪い気もするけど、黒羽さんと一緒に居るのは凄い楽しいな。

室内温度
(君が居るだけで、こんなにも暖かい)



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