1 「・・・先輩」 「どーしたのー?」 「いや、別に・・・」 今現在、お義父さんはお仕事、透子さんは今なんかの用事で外に出ているの為、付き合い始めた二人が二人っきりで家に居る。 緊張して、話の途中であるにも関わらず話を遮る様に先輩の事を呼ぶなんてことをしてしまったのは、なんだか普段と雰囲気の違う先輩の所為だ。 付き合い始めてからだいたい週一のペースで訪れるようになった先輩の家。 たまにだけどご飯も食べてくこともあり、やはり先輩の父親だからというべきか凄いかっこいいダンディーなお義父さんとも少し話したりもした。 大人の渋い声で紡がれていく言葉達が、何だか羨ましい。 恋人同士の会話というものは全然わからなくて、だいたい本の話とかクラスでのことを話すぐらいだ。 流石にそれは駄目かなぁとは思うものの、先輩後輩の関係からそうゆう関係になったと意識するだけでもギリギリなので、そんなことまで頭が回らない。 何とかしなければとは思うものの全然駄目なのだ。 ついでに言えばデートとか言うやつは着々に繰り返しており、先輩は美味しいスイーツ屋さんとか探してくれたりする。 お金を出してくれたり、荷物を持ってくれたり甘やかしてくれるのはまあ普通に嬉しいし安上がりで済むと考えるあたり、まだ俺はこの関係に順応してないんだろう。 「しーぐーれー」 「何ですか?」 ベッドに二人座って話していたのだが、先程まで話していた話題も俺が先輩のその、色気とやらにやられて中断してしまってから静まっていた室内。 少しは恋人らしいこと、と考えて今度先輩が貸してくれた本が実写化するから一緒に行きませんか、だなんてデートのお誘いの言葉を勇気を出して言おうと思っていたのに、その前に先輩から声をかけられる。 「ね、こっち向いて?」 「・・・はい」 先輩の目を覗き込むように目を見ると、頬に添えられる手。 俺は知ってる、この後キスされることを。 緊張した俺に、余裕そうな先輩はくすりと笑うと顔を近づけてくる。 覚悟したとおりに柔らかいものが角度を変えて何回も俺の唇に触れて、堪え切れずに口を小さく開けば侵入してくる舌。 まだ数回しかしたことのない深いキスは、俺のキャパ以上の刺激を与えてくるので慣れることはいつくるのやら。 「せん、ぱ・・・」 「時雨」 漸く解放され、倒れる体、受け止めるベッド、そして天井と先輩、再び重なる唇。 普段から時々先輩の本性の一つと言うべきか、荒々しい雰囲気が見えることはあるものの、こんなにそれを露わにされたことは今まで一度もない。 「・・・ダメ?」 「なにが、ですか?」 たぶん、俺は知ってる。 先輩がしたい行為を悟っている。 俺の上に馬乗りになっている先輩。 思わせぶりに腰を撫でる指、逃さないとでも言うように肩を押さえつけている。 「時雨のこと、抱きたい」 熱い、熱い。 顔が一気に赤くなるのを自覚しながらも、先輩の強い眼差しに目を逸らせない。 「あ・・・っ、やだ」 「それはダメ」 「っ!?先輩、それは酷いです!!」 「優しくするから」 「でも、怖いです」 「大丈夫だよ」 「・・・・・・・・」 「ね、早く時雨の全部頂戴?」 「・・・わかり、ました」 今度、ちゃんと心を決めてから来ようと思ったのに。 これから行われる行為をしたことない自分、慣れてそうな先輩。 実際には結構なバスケ馬鹿だから童貞ってことは無さそうだけどあまりしたこともなさそう、だなんて過去を想像して嫉妬。 今求められているのは、確かに俺で。 試合を観戦に来ていた女の子たちを思い出して、一人優越感に浸る俺は、どうやら先輩の事が大好きらしい。 外されていくボタン、その手際は素晴らしいとしか言えず、あっという間に上半身が露わになっていく。 目を細めて、まるで品定めでもするようにじぃっと見つめる様子に、それだけでなんだか息が荒くなって、手汗とかきっと凄いことになってる。 これ、視姦って言うんだっけとか考えるけど、なんかもう兎に角恥ずかしい。 先輩の長細い指先が腹部に触れ、自分とは違う体温に驚く。 今は別に寒い時期でもないけれど暑いわけでもないので、やはり服を脱がされれば肌寒い。 「時雨ってひきこもりだから肌白いよね」 「まぁ、そうですね」 実際に中学でも帰宅部だったし、休日は外に出ると言えば本屋に行くぐらいだ。 たまに友達の家に遊びに行くこともあったが、元来社交的な性格でもないから友達も多い方ではない、というか少ない方だ。 「んー、肌触り気持ちいー」 「・・・っ」 肌の上を先輩の指先が体のラインをなぞるように触れてくるので、思わずその感覚に驚いてしまうが、何とか耐える。 それでも次第に明確な意図を持って肌を滑る指先はじわじわと快感を与えてきた。 しおり |