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眠くないと思っていたが、泣いたせいで疲れた体と心は休養を求めて夢の世界へと連れて行ってくれた。

男同士だとわかっているからあまり大っぴらに行動できない。
だからと普通に友達同士で遊ぶようなデートを繰り返してきたが、いつも俺をエスコートしてくれたり、車道側を歩いてくれたり、男としてのプライドは傷ついたが、恋人としての俺の心は瞬時に満ち足りた。
そんな思い出が沢山浮かび上がって、再び現実で目を覚ました時に少し泣いた。

八尋の携帯電話は傍らにまだあり、何件か着信があったことを知らせるように小さく光る。
俺は自分のを持ってくると無料のメール・電話アプリを開くと、最初にメッセージを打って、その後一時間ぐらい考えてから声も届けてみた。

「俺は、八尋が好きだ」

メールの内容を考えるのに二時間ぐらいかかってしまった。
でも、それぐらい俺にとっては辛いことで、きちんと整理しないとこれから前に進めなくなる気がして。

何て言葉を俺の声で伝えるのかと本当に迷った。
メールの方では浮気してるの知ってるとか、もう疲れたとか負の部分を思いっきりぶちまけてただただ八尋を責めたし。
そして最後に、もう終わりにしようと打ち込んだから。

だから俺の声で、最後に八尋に愛を伝えてみたかった。
過去形なんかじゃない、今もずっと好きなんだ。

それは俺の中にあるまだ大丈夫と言う幽かな期待。
馬鹿じゃないのかと事情を知る人間なら言うかもしれないが、それが真実だ。
俺はまだ、お前を嫌いになれないんだよって。

静かに頬を伝う涙を拭う気にもなれない。
後から後から流れるソレを皮膚で感じながらも、もう終わったんだと俺の心の中から八尋の顔、声、行動、好きなものを消そうとする。

そして、より一層細かく思い出す。

乾いた笑い声が勝手に喉の奥からわき上がり、俺自身を嘲る。

嗤って、嗤い尽くすと八尋の携帯を手に取り顔を洗うと外へ出る。
俺のマンションから15分程の場所にある彼のマンションへと向かうためだ。

八尋の言葉を信じているわけではないが、大学の研究室に籠っているのなら家には居ない筈だろと、今でも縋りつきそうな己にまた嗤う。

マンションのポストに入れると、そのまま踵を返す。
ああ、終わったんだなってようやく自覚もして、体が震えた。

漫画とかドラマだったらこのまま雨が降って俺をずぶ濡れにさせてバッドエンドで終わるのだろうけど、何故か快晴だ。
それは何か未来への暗示かと、信じてもいない占いやオカルト的なものへ頼ろうとしている自分の弱さが辛かった。

「・・・いっそ、世界の不幸が俺にあつまりゃ良いのに」

なんて、どこの悲劇のヒロインだ。

前方から来る赤ちゃんを抱えた女性。
俺は子供なんて産めないから、柔らかくもない体だから、なんて。
男と付き合っているのだから仕方ないと言えばそうだけど結局駄目だったんだろう。

元々、俺はゲイでもホモでもなかった。
彼に至ってはとっかえひっかえするようなタイプでは無かったものの常に彼女は居るような男であったのだ。
自然界の法則に、再び当てはまるようになっただけだ。

動物の本能は子孫を残すこと。
俺もいつかは彼を忘れてそこそこ可愛い女の子と結婚して、子供を作って。

想像して、八尋のいない未来ってつまらないなと馬鹿なことを考える。
これ以上は考えても無駄なだけだ。

明日は大学に行って合コンにでも参加してこよう。
就活の終わった奴らが毎日毎日馬鹿みたいにしていたのを笑っていたが、今は土下座してでも行きたいものだ。

「おい、ともか!!」

彼の声、女の人の、携帯に表示されていた名前。
先程前方を歩いていた女性に近づく陰に息を飲み込む。
近くから聞こえてきたその声に驚いて、近くの路地に入り込み身を隠した。

「勝手に行くな。まだ体調悪いんだろ」

「ごめんね。じゃあ智尋を抱っこしてくれない?」

「・・・わかった」

幸せそうだ。
彼も元通りの道を歩み始めただけだから。

何も、悲しいことなんてないんだよ。



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