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目を覚ますと額に張られていた筈の冷えピタが外され、濡れたタオルが置かれてあった。
時計を確認すると16時ぐらいで、絶対に普段でも親は帰ってきていない時間なのでどういうことだろうと首を傾げる。

頭を少し動かしただけで痛みが襲ってきて、頭を抱えていると階段を上る音が聞こえる。
この濡れタオルを用意してくれた主と言うことは予想できるが、両親でもないと考えると後は精々香苗さんぐらいしか思いつくあてはない。

そうこう考えているうちに扉が開き、そこから顔を出した人は俺のよく知る先輩のものだったので目を軽く瞠る。

「・・・先輩?」

「なーに起きてんのー?まだ寝てなさーい」

「え、いや・・・何で?」

「あれれー?先生から聞いてない?」

「何か言ってた気もしますが頭に入ってきませんでした」

「んー、まあ仕方ないか」

佐藤先生が俺が病院へ行った後母さんに電話してくれた結果、最初は香苗さんに家に来てもらい世話して貰うわとのことだったのだが、その香苗さんもなんか用事があったらしく来れない。
ならばもう五十嵐君に任せちゃえばいいじゃない、時雨の持ってる家の鍵でも強奪・・・ちょっと借りて五十嵐君に渡しといて下さいってのが母さんの言い分だそうだ。

「・・・母さんの言いそうなことですね」

「そーそー、もういきなりさとー先生から話聞いたときは焦ったよー?」

「心配かけてすいません」

「まぁそれはいいけどさー。あ、水飲む?」

スポーツ飲料を渡され、背中を支えられながら飲み出すと、寝起きで話したせいか思ったよりも乾いていた喉を潤す感覚が心地よかった。
体の中を燻っていた熱もほんの少しだが冷めたような感覚さえしてくる。

「喉乾いてたのかー、気づかなくてごめんねー?」

「いえ、そんな・・・」

「じゃあ熱計ろうか?」

なんだかいつも以上に間延びされたその喋り方は幼児扱いされているようで少しムカムカするのだがそれ以上に安心するのは、熱の所為で精神的に安定してないからなのか?
熱で寝なければいけないのだが、先程まで寝ていてその上に考え事まで出てきてしまったのでなかなか寝付けなさそうだ。

「寝たほうがいいんだけどー、その様子だとー寝たくなーいってかんじー?」

「・・・その通りです」

「んー、レトルトのお粥あるからー作ってくるよー」

寝なくてもいいから横になっててと言われ素直に頷くと額にキスされる。
咄嗟のことである所為と熱で怠い体の所為で、ゆっくりとしか動かない手をそっと額に当ててみると先程よりも熱を持っているような気がした。

「ほらほらー、誘われると乗っちゃうかもしれないからー」

「ば、か・・・じゃないですか!」

「はーい寝ろー」

そう言って、レトルトなのでたぶん少しだけの時間なのだが布団を掛けられて大人しくベッドへ潜り込む。
布団の上からお腹辺りを撫でられて立ち上がる気配に咄嗟に手を出すと驚いた顔の先輩の顔が見れたのでとりあえずよしとしよう。

「お腹すきました」

「・・・りょーかい、お姫様」

すぐに部屋を立ち去った先輩に、やっぱり寂しくなって布団の端を掴んで顔を出す。
やはりそこには誰も居なくて、きっと5分未満で戻ってくるとわかっているのに布団から出ようとした自分を少し笑った。

小さい頃は母さんもまだ働きに出ていなかったので傍に居てくれた。
風邪の時に気が小さくなると言うか心許なくなるのは俺も例外ではないのか昔のことを思い出すなんて案外マザコンの気質でもあるのだろうか?

なんて考えていると、やはり考え事をすると時間がたつのがまた階段を上る足音がして思わず先程とは違った笑みを浮かべる。

「しーぐれー、お待たせ」

「ありがとうございます」

また体を起こしてもらい、匙を口元に寄せられて目を開く。
予想外の先輩の行動は最早体に毒らしく頭が少し痛んできたのは気のせいではない。

「食べないのー?」

「・・・食べますよ、自分で」

「ざーんねーん」

意外にもすんなりと匙を渡してくれたので受け取ると口へ運ぶ。
レトルトなので不味いと言うことは確実になく、胃の中へ運ばれていくお粥。
半分程食べたところで腹一杯になってしまったので机の上に置かれてある薬の入った袋を持ってきてもらって少ししか残ってない病院での記憶をたどる。
薬袋にも食後に2錠など書かれてあるので特に手間取ることもなく薬を飲み込む。

「じゃあもう寝ろよー」

「わかってますよ」

「なんだったけなー。ねんねんころりよ、おりこうよ」

「・・・子ども扱いしないでください」

「へいへーい」

瞼を手で覆われ、閉ざされた視界に困惑するのも束の間、唇に何かがゆっくりとぶつかって数秒その場にとどまっていた。
それが離れた瞬間呆然としたままで、ハッとして目を覆うものをなんとか退けようと体を動かすもそれは緩慢な動きでしかなく、その上頭を痛みが襲う。

「せ・・・ぱ、い」

「おやすみ」

もう一度唇に柔らかい感触がすると共に眠気が襲ってくる。
痛みが来るよりはいいものではあるのだが、今は空気読めなさすぎだ。


再び目を開けた時、傍で眠る先輩と繋がれた手に思わず笑ったのは仕方ないだろう。
時計は20時を示しており、先輩もそろそろ帰らなくてはいけないのだと思いながらもその手を放すこともせず、もう一回眠りの世界に落ちた俺は悪くない。

今日は、いい夢が見れそうだ。


魔法の口付け良い夢を
(その口付けは、きっと夢の世界への切符だね)



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