何するんだ、何がしたいんだ、なんて言葉を紡ごうとして口を塞ぐ。
この様子だと俺がコイツのことを忘れてるのが悲しいとかそんなのじゃないと思うけど、妙に真剣な顔されると何て言えばいいのかわからなくなる。
変な笑みの後の妙な真顔は不気味としか言いようがないけど、俺が原因だと言われれば黙るしか出来ないのだが。
「どうしたんだ?」
「・・・萎えた」
「は?」
突然動きを止めたかと思えば不機嫌な顔に戻り、変なことを呟きだす。
この奇行が嫌で、もしかしたら同居を止めたのかもしれないなと推測してみる。
こんな意味不明なこと毎回されてたら疲れるし面倒くさいし、相手にするのが馬鹿馬鹿しいと言ったらあれなのだが、そうとしか言えない。
腕を引っ張られた関係で立ち上がってしまった体をもう一度ソファーに沈める。
そして何故俺の隣に座るんだこいつは。
「よくわからんが、結局俺とお前は普通の同居人ってことでおっけー?」
「いや、もうちょっと深い関係だったぜー?」
「・・・家庭教師?」
「考えろ、思い出せ。自分で」
「思い出せねーからわざわざ来てるんだよ!」
そんな俺の返答に舌打ち。
記憶喪失ということで多少の対応の悪さは治ったと思ったんだがな・・・
「仕方ねーな。ヒントやる」
「おお、さんきゅー」
やっぱり口悪いだけで実は良い奴なのかもしれないとコイツに対する見解を二度も三度も変えているが、それだけ態度がコロコロ変わっているせいだ。
俺の顎に手をかけ、腰に腕を回す。
その体勢に不安や疑問を感じるも最早遅く、間抜けにも開かれていた口内に舌が侵入したところでやっと俺の意識は戻ってきた。
慌てて押し返すものの、力の差は歴然でびくともしないどころか更に強く腰を抱かれてしまい、形振り構ってられずにとりあえず舌を噛む。
「ってぇーな、何すんだよ」
「お・ま・え、が何すんだよ!!ふざけんな!」
「だからヒントつっただろ!!」
「言葉で説明しろ言葉で!」
「あー・・・セフレ?」
「・・・なら最初から普通に言えよ」
男同士だから、恋人になどなれない。
セフレなら今までに何人かいたことはあるし、特に驚くようなことでもない。
「冷静だな」
「お前より年上なもんでな」
「つまんねーの」
「とりあえず、お前記憶回復の役にたたねーし。もう帰る」
休日に邪魔して悪かったなと声をかけてソファーから立ちあがる。
何も言わないところを見ると、勝手にしろと言うことなんだろう。
「じゃーな。また押しかけるかもしんねーけど。あ、記憶戻ったら一応連絡するわ」
「また押しかけるって・・・」
「今カウンセリング受けてるんだけど、昔からの知り合いと話せって言われてんだ」
「へぇー。で、何で俺?記憶回復の役に立ってないんでしょ?」
「皆社会人だから時間空いてる奴なかなかいないんだよ。迷惑かけたくないし」
「確かにそうだけど。俺も就活中だって知ってる?」
「あー・・・四年生か。まあ、決まったら連絡してくれよ」
事故の時に携帯も壊れてしまい、新しいものに変えたので新しい連絡先を塾の名刺の裏に書いて渡しておく。
たまにでいいから思い出話でも聞かせてくれと言って再度踵を返す。
玄関まで行き、靴を履いていると足音が聞こえる。
「どうしたんだ?」
「なあ・・・もっかいセフレなんねー?」
「ならない」
「何でだよ」
「今は記憶を戻すのと塾の仕事で忙しいんだ。今は受験に向かって大事な時だし」
「・・・ま、気が向いたらな」
「おぅ、じゃーな」
「さいなら」
閉まる扉。
それにしても、俺は随分とイケメンな彼とセフレだったようだが。
アイツ以外の今までいたセフレの顔は数人は覚えているのに、本当に奴のことだけは綺麗さっぱり、まるで最初から知らなかったように覚えていない。
そのことに疑問を抱きながらも歩みを進めたのであった。