04

ぞんざいな扱いと言え、休日に連絡も入れずに押しかけてしまったのはこちらなので大人しく顎で示されたソファーに腰掛ける。
向かい側に座る男はやはり不機嫌な面持ちだが一応でもこちらの話を聞こうとしているのでそれだけは本当に感謝している。

「・・・で?」

「その、実は俺・・・」

「やり直したいとかやめろよ、面倒だ」

「何の話?」

別れた恋人同士でもないのだからやり直したいって言葉は不適切だ。
それとも仕事を無くしたから家賃払えずにアパート追い出されて、また一緒に住もうと言ってると予測されてしまったのか?
喜ばしいことに迷惑をかけてしまったとはいえ今も楽しく生徒達に教えてるよ。

「何の話って、テメェな」

「あーあー、怒らせたらすまない!その、俺記憶喪失でな・・・」

「はぁ?何言ってんだよ」

信じられないのも無理はないのでなるべく詳しく話すと少しは信じてくれたのかはわからないが出会い頭のような不機嫌そうな顔は消えた。
同情するような目も向けてこないのはこちらとしても嬉しいので気にしない。

「まあお前が記憶喪失だってのは信じる。言われてみれば腕の動きがぎこちない」

「それは良かった、ありがとう」

「信じたうえで聞くが、何で俺のとこに来たんだ?」

「先生が、半年前とは言え生活を共にしてた人だから話を聞いてみたらって」

最初にコイツの写真を出したのもそんな風に毎日顔を合わしていたであろう人の顔はいくら記憶が一部失われていたとは言え覚えていると思ったかららしいし。
残念なことに俺はコイツのことを何も覚えてはいなかったけど。

「ふーん。話って言ってもなー」

「そう言えば、多分だけどお前年下だろ?」

「俺は今年大学四年」

「ってことは俺と3歳差ってことか・・・」

接点って一体何なんだろう。
大学三年生の頃から塾でまずは個別指導としてバイトし始め、確かそれと共に家庭教師もしていた筈だ。
聞いたところによると家庭教師は一年間で辞めたらしいけど。

「あ・・・家庭、教師」

「ん?思い出したのか?」

「家庭教師してた時の記憶が無いんだ」

一応病院に居るころに俺の今までのバイト先など親や友人に調べて貰っていたので家庭教師をしていたことも知ってはいるが覚えていない。
その時はただ今塾講師をしているから昔の生徒は忘れてしまったのだと考えていた。

でも事前に聞いた神楽坂と俺の大学は別だったので接点があるとすればその家庭教師をしていた頃ぐらいしかないだろう。
それを思いついて呟けば、まるで正解とでも言うような声色で話す神楽坂。

「え、じゃあお前・・・俺の生徒だっ―――」

「それよりさぁ、ちゃんと詳しいこと教えてやるからこっち来い」

「・・・は?」

遮られる言葉と、最初から口調は悪いというか偉そうだと思ってたが急に命令口調に変わった目の前のよくわからない笑みを浮かべる男。
戸惑ったまま動けないでいると、焦れたように俺の腕を引っ張ってきた。

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