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俺こと藤守刹那は、男が好きだ。
いや、この言い方には少し語弊があると思うので言い直そう。
恋愛対象、つまり性的興奮を覚える相手が男であると言うことだ。

異常性など百も承知、誰にもこの性癖について話したことはない。
世間に白い目で見られることも理解しているし生き物にとって一番大切な子を成すことなど出来ない不毛な関係であることも重々承知だ。

「藤森さん、ここがどこだかわかりますか?」

「病院、ですよね?」

「はい」

上記のような俺のくだらない自己紹介をしたのには理由がある。
それは何故俺がここに居るのかわからない、そして記憶に陰りがあることだ。

「俺は・・・どうしたんですか?」

「転落事故にあってしまったんですよ」

詳細を聞くと、俺の勤めている塾の屋上でフェンスに寄っかかっていたらそこが老朽化していたらしく転落してしまったらしい。
通り魔に襲われたなどよりは余程いい怪我の仕方だが体の節々の痛みは頂けない。

「これから医師を呼びますので、詳しいことはそちらと」

「わかりました」

横たわった体勢から起こされて、飲み物も用意してもらって医者を待つ。
すると初老の男性と中年の女性が入ってきた。

「初めまして、精神科医の佐伯です」

「初めまして、整形外科の南です」

差し出された手を握り返し、俺の状況を聞いてみるけどはっきり言ってあまりわからなかったのが正直なところだ。
落ちた場所が木が茂っていたのとあまり高い建物でなかったのであまり大きな怪我は無いけど腕は骨折してしまったらしい。
とりあえず利き手は怪我しなかったことは幸いと言っていいだろう。

早々に南先生は退場して佐伯先生と二人で話すことになった。
両親の名前や勤め先などいろいろ聞かれたけれど住所や大学時代の記憶がまるで抜け落ちたようにわからなかった。
俺の意識がなかった時にいろいろ身辺を調べたらしい。

「この人の記憶は?」

「・・・誰ですか、この人は」

差し出された写真にはなかなかのイケメンが映っていたがこんな人見覚えなど全くと言っていいほどない。
もし昔馴染みの奴だったら本当に申し訳ないが、記憶にないのだ。

「半年程前まで同棲していた相手よ」

「わかりません」

「そう、じゃあ貴方が務めている塾についてなんだけど」

写真の相手についてはこれ以上追及されずに他の話題に移ったので俺も気にせず頷く。
喜ばしいことに塾のことについてはきちんと覚えていたのでそれはよかった。

日常生活に支障はないので後は身体の怪我が治れば後は週一回のカウンセリングを受ければそれでいいことになった。
俺としても先程の写真の相手含め忘れていることをきちんと思い出したいが、早く仕事に復帰したいと言う思いもあったのでよかった。

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