03

軽い浮遊感。
その後すぐに足が地面に着いた。
そのまま立っていようと踏ん張ったのだが力は入らず、意識が朧げなのと相まって身体は不安定に揺れ、やがて傾いていく。

が、その前に腰をがっしりと掴まれたおかげで倒れずにすんだ。
この感触は先程の浮遊感と共に感じたものだと、その正体を見るためにゆっくりと目を開いた。

「・・・誰?」

「おいこら忘れんじゃねぇぞ」

あ、この声聞いたことある。
てかこの顔見たの久しぶりだけど、知ってる。

そうして今、俺はほぼ全体重を神楽坂に預けていることに気づいて慌てて体勢を直す。
あんまり力が入らないからちょっとフラフラするけど倒れるほどじゃないから大丈夫、な筈。

「ごめん、神楽坂」

「・・・大丈夫か?」

「ちょっとクラクラする、けどなんとか。てかここ・・・どこ?」

「俺の最寄りの少し手前。ここで乗り換えすんだけどお前見つけて」

「え、俺どうなってた?」

酒のせいであまり舌が回らないけど寝たおかげか意識ははっきりしてる。

曰く、駅のベンチに座って寝てた俺を見つけた、以上。
とっても簡潔明瞭に話してくれた。

ここはこの電鉄の終点で、多分車掌さんか誰かに言われて降りたんだと思う。
だが電車から降りてからすぐに近くのベンチに座った、のだろう。
そうして今の今まで爆睡ってとこだな。

てか俺の乗り換えする場所ここじゃねえ。
・・・うん、終電いっちゃってる。

「とりあえず駅から出るぞ」

「ん、悪いもうちょっと肩かして」

無言で腰に回された腕に、見た目によらず紳士だなぁ、とか失礼なこと考えるが口は噤んでおこう。

「お前、見かけによらず優しいな」

噤んでおこうと思ったのだけど、酒のせいでゆるふわな脳みそは喋れと命令を伝達したらしい。
俺の口は勝手に動き、これまた緩んだ頬は側から見れば微笑んでる感じだろう。

まぁ実際問題酔っ払いが若者に絡んでるだけなんだけど。
お喋りなお口により紡がれた言葉に返答はなく、そうこうしてると地下のホームからでて、地上についた。

どうやら神楽坂の乗り換える筈の電車も、終電はいってしまったようなのでタクシーで帰ることに。

俺もタクシーで帰ればいいんだろうけど、ちょっと俺のマンションからは遠過ぎるのだよここは。
先程土萌くんに奢ってやったばっかだし懐が寂しい。

やべえどうする、なんで内心ドキドキしながらも、今度は疲れのせいで1ミリも動かない表情筋。
だと言うのに俺の内心の焦りを見抜いてくれた神楽坂。
こいつ顔だけじゃなくて性格も実はいいとか何狙ってんだろ。

「ソファーなら貸してやる」

「まじで!?」

「まだ夜は寒いだろ。死なれても困る」

こいつの言う通りまだ肌寒いので始発を待つってのも結構キツかっただろう。
年下なのにしっかりしてて、ちょっと恥ずかしくなってきた。

「本当ありがと。今年就職だったんだろ?今度飯奢るから」

「そりゃどーも。タクシー来たぜ」

住所を告げ、走り出した車体の中から街並みを眺める。
素早く過ぎ去っていく景色を見ていると、また眠気が襲ってくる。

ああ、そういやこいつ俺が起きなきゃどうするつもりだったんだろう。
筋肉質だし肩幅も身長もあるから、頑張れば俺一人運べはするんだろうけど大変な筈だ。
しかも寝てる人間ってすっげぇ重くなるのにさ。

タクシー代は俺が払おう、そう決めながら、結局睡魔には抗えず、静かに意識を手放した。

[ 9/9 ]

[前へ 目次 次へ]
しおり

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -