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四月、俺の記憶は大して戻らないままだった。
それでも何とか教え子たち全てとはいかないが希望の進学先へ行く手伝いは出来た。
トップクラスの学校へ進学を考えている子達相手の授業はやはり難易度の高い応用問題ばかりの学習となるしで精神的にもだが肉体的にも疲れた。

そこそこ大手なので、特に今年は人手が足りずに多く講師を募集したらしく、新しい生徒もだが新しい同僚を覚えるのも大変そうだ。
担当するクラス、また個別指導の相手などの顔を貰ったプロフィールをもとに覚えてく。
俺は受験する年齢の子達の指導が多いので、参考にもらった成績表や今までの模試の結果を分析するのがここ最近の日課となっていた。

「藤守先生、新しい講師の方を紹介をするそうですよー」

「あ、小林先生!今行きます!」

急いで乱雑に置かれた資料を何とかパッと見だけでも綺麗に見えるように片す。
今年は数学担当の講師も新しく入ってきてくれたらしいので、やはり尊敬できる先輩、と言うのになってみたいじゃないか。
学校でいうところの職員室へ急いで向かうとこの時間フリーの講師たちは俺以外ほぼ全員そろっていた。

「すいません。お待たせしました」

「大丈夫ですよ、まだ新しい先生方と塾長は来てませんから」

俺の言葉に少し笑いながらもどんな子達が新しい同僚になるんでしょうねって言ってくれたので俺も言葉を返しながら前を向く。
それと同時に塾長が入室し、後ろからまだ着なれていないだろうスーツを着て、少し緊張した面持ちでなんだか俺も初心を思い返すものだ。

「・・・・あ、」

「どうしました?」

「いえ、なんでも」

新しい講師たちの列の最後から二番目に、見知った顔があった。
思わずなるべく自然な動きを意識しながら二三回は見直してしまったのだが。

国語、英語、と続けて数学の新講師の紹介になる。

「柊瑞希です、よろしくお願いします」

「土萌一臣です、よろしくお願いします」

数学はこの二名のみらしい。
次にはもう公民や地理、物理などの講師の紹介に入っててあいつについて考える時間をほんの数秒さえくれはしなかった。

塾長から最後に締めの挨拶を貰い、今度は各教科内での話し合いなどになるらしい。

「藤守先生、挨拶に来てくれましたよ」

「あ、鎌池先生!俺達も自己紹介をしましょか」

「ええ、お先にどうぞ」

「あ、じゃあ。藤守刹那です、よろしく。相談とかあれば気にせず頼ってほしい」

「僕は鎌池遥です。僕も相談ならのるから気軽に頼ってくれると嬉しいな」

分校も多いので今地方へ行っていたりなどその他諸々の事情で本日は俺らしかいない。
今、ビデオを撮って授業をするところもあるみたいだがそうゆうのは行っていないので地方での講義があれば行かなくてはならない。

自己紹介も終わり、雑談も少しすると鎌池先生の講義が始まるので解散となった。
柊は鎌池先生の授業を見学兼補佐としてとついていき、その場に土萌と残されたので少し声を潜め私的な会話をすることにした。

「それにしてもお前が塾講師か。あんなに勉強嫌がってたのにな」

「煩いし刹那。俺だって成長するっつーの」

「はいはい。ま、兎も角宜しくな」

どうやら土萌は主に個別指導をするらしいのであまり関わりそうにもないが。

土萌は俺が大学生の頃にバイトで講師をしていた時に担当していた生徒だ。
凄い厳しい親で、普通に他所の予備校にも通わせていたのに態々また別のとこで個別指導まで受けさせるとは本当に可哀想だった。
まあ、結果的には難関校に進学することで親とはそんな争うことはなくなったそうだ。

「というか刹那。お前記憶は?」

「聞いてたのか」

「塾長からな。俺がここの元生徒で刹那が担当だったんだし」

「ま、そうか。てか担当だった言うなら呼び捨て辞めろって」

「普段は藤守先生言うから大丈夫だって」

「ほんとかー?」

「本当だよ。で、記憶は?」

残念なことに未だに数人の記憶が全くないと伝えた。
今現在仕事も前と変わらずにこなしており、忙しいので思い出しに会いに行こうにも時間が取れないと言うのも一つの要因かもしれないが。

それに神楽坂とはたまに連絡は取っているが最初以降もう直接は会っていない。
たまにルームシェアしていた頃寝ぼけてベッドから落ちる音が煩かっただの云々余計な思い出話を聞かせて貰っているぐらいだ。
セフレだったころの記憶は無いし、それこそルームシェアしてた時の記憶もない。

「まぁでもお前はちゃんと覚えてたけどな」

「・・・当たり前だろ」

「照れてんのか?はは・・・って、やべ、時間だ!」

「は、人のこと馬鹿にしてるけどやっぱ刹那のが馬鹿だな!」

「うっせーよ!ってやば、プリント何処やったっけ!?」

その後はいつも通りに授業をした。
久しぶりに土萌に会えて嬉しかったのもあってか、少し雑談が多くなってしまったが。
まあ四月の初めだ、たまにはいいだろう。


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