寝返りを打つと同時に肌を隠していた布が落ちる。
上半身には一糸纏っていなかった為に肌寒さを感じて身じろいだ。
そうして寒さで起きれば、隣に居ないぬくもりに飛び起きる。
なんで、だって昨日は肌を重ね合わせて愛を確かめ合ったというのに。
目を開けば何時も抱きしめてくれる紅が居た為、その当たり前が崩れて慌てふためいてしまう。
しかし次第に寝起きのぼんやりと意識が覚醒すれば、ただトイレにでも行ったのだろうとあっさりと結論が出る。
今は何時だろうと時計を見ると、どうやら丁度良く正午になった。
下着しか身につけいていない為、部屋着を適当に着込む。
やはりこの時期は随分と冷え込むもので、扉一枚向こうの暖房があるリビングへと向かった。
「おはよう」
「おはよう。体調は大丈夫か?」
「ん、大丈夫」
近寄ってきた紅に、そっと腰を撫でられて思わず赤面。
昨夜の色事を思い出してしまい、軽く頭を振って気を取り直す。
「お昼ご飯何がいい?」
「肉」
「んー、じゃあトンカツにでもしよう」
冷蔵庫の中を思い出し、その他のメニューも考える。
決まりさえすれば後は調理をするだけだし、さっさとお肉や野菜の下拵え。
そうして出来上がったものを盛り付けてようやく完成。
たぶん紅はそこら辺で本でも読んでるだろうしまだ呼ばなくていいか。
「出来たか?」
「わっ、びっくりした・・・出来たよ」
そう言うとお皿をテーブルに持って行ってくれる。
今迄こんな行動を取ってくれたことが無かったので純粋に驚く。
でもたぶん俺寝坊しちゃったし朝飯を食べ損ねてお腹減ってるんだろう。
ポン酢と大根おろしで和風に。
それは随分と好評だったらしく、いつにも増して褒めてくれた。
嬉しいし作った甲斐があるし、でも恥ずかしくなるぐらいだ。
お皿を片付けてやっと一息ついたところで紅に呼ばれる。
ソファーの前のセンターテーブルには中ぐらいの箱と小さな箱が置かれてあった。
「どうしたのそれ?」
「透・・・」
「ん?・・・っわ、!」
未だ突っ立っていたままだったのだが、腕を引っ張られて逞しい胸にダイブ。
顔を上げればすぐに唇が重なって、暫く軽いキスを何度も繰り返す。
啄むようなそれだけど、何度も繰り返されると恥ずかしいし息苦しくなる。
「ちょ、紅!?」
「ん?あぁがっつきすぎたか」
俺は紅の膝に乗ったまま。
紅が目の前の中ぐらいの箱を開けて見れば、その中身はケーキだった。
「あ・・・俺誕生日だった」
「誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう。愛してる」
箇条書きのような言葉だけど、その声音に含まれた愛や優しさが感じられて、胸が締め付けられる。
好きな人に誕生日を祝われるって、なんて幸せなんだろう。
こうして生まれたからこそ紅に会えて、ああ父さん達に感謝だ。
「ありがと」
短い言葉に俺も愛を込めて。
そうして再び唇を重ね合わせて、今度は深いキスにクラクラした。
「ん、っ、こう、だーめ」
「ケーキ食べようか」
丁度二人分の小さめな丸いケーキ。
白くてフワフワとしたそれを見るとやはり心が踊る。
切り分ける為にキッチンへ向かおうとしたのだけど、紅は腰に巻きつけた手を離してくれない。
このまま食べるのも確かに楽しそうだし、いいことにする。
俺が大人しくなったのを見た紅は、ケーキをフォークで掬うと俺の口元へ運んできた。
これは、まさかのあーんというやつか。
さっきの料理も誉め殺しと言っていいほど褒めてくれたのも合わせて考えると、どうやら今日はいっぱい甘やかしてくれるらしい。
恥ずかしいし気持ちもあるけど、なんとか堪えて甘いそれを口に含む。
果物も中に入っていて、酸味とクリームの甘みが最高だ。
そうして紅はたまに自分も食べながら俺にあーんしてきて、やがて食べ尽くした。
なんというか、もうこの時点で満身創痍だ。
だって紅の膝の上でさ、あーんしてもらって、耳元でずっと美味しいか?、好きだ、愛してるのコンボなんだよ?
紅は自分の色気をもっと知るべきだ。
心底恥ずかしいので今は紅の膝に乗ってその胸に顔を埋めている状態だ。
そう、先程体勢を変えたのだけど、優しい笑みが眩しすぎて早々に白旗をあげた。
あれ、いや紅がかっこいいのは知ってるけど更にかっこよく見える。
ああこれが惚れたということか。
「透、もう一つ」
「なに?」
さぁもうトドメを刺せ、大丈夫倒れても紅が介抱してくれる。
なんて惚気ですよーだ。
ゆっくりと顔を上げて視線を合わせる。
たぶんケーキの箱の隣にあった小さな箱のことだろうかと考えていれば、予想通りその箱を差し出される。
「アクセサリーの類いは宝具があったからな」
開けてみろ、というのでその通りにすれば、なんと高そうな腕時計。
色合いや遊び心のあるデザインにすぐに心を鷲掴みされた。
「やはり常に持っていて欲しいから」
「すっごい気に入った!ありがとう」
箱から出して光に当ててみたり、意味もなく掲げてみたり。
アクセサリーは独占欲の表れなど言うけど、常に身に付けて欲しいとは、つまりはそう言う意味だろう。
なんて一人で想像してまた赤面したり。
ああ顔が熱い。
「これからも、ずっと祝わせてくれ。お前だけだから、愛してる」
両手で手を包まれて、真摯に語りかける紅のかっこよさ。
真剣に話してくれるのだからと、俺も真顔を作ろうと頑張ったけど、やっぱ無理。
真っ赤な顔だって自分でわかるほどなんだし。
意味もなく呻きながら、その胸に抱きつく。
顔を見られたくないからの行為だけど、ちょっとそんな笑い声あげながら俺を抱きしめるな!
惚気じゃなくて本気で俺は困ってるんだ。
このままじゃたぶん心臓発作で死んじゃいそうだった。