苦し気に伸ばされた指が腕に絡まり、そのまま力を籠められる。
痛みに思わず振り払おうとするがビクともしない。
いつもは人と吸血種の力の差を知っているから肉体的に強く出てこないのに、我を忘れてしまっているのか。
「紅、痛い…」
「ちっ、……悪い」
言葉でなんとか伝えれば冷静になろうと呼吸を繰り返す紅。
やがて落ち着いたのか指が離れ、顔も強張ったままだが皺はとれている。
「今日、変なのに絡まれたんだろ?」
「あ、うん。でもカイン先輩が助けてくれて」
「助かったのはいい。でも、他のに触られたんだろう」
「腕掴まれたぐらいで、」
何もなかったと言う前に、先程掴まれて赤くなったその場所に口づけられる。
手の甲とかに唇が降ってくるのがむず痒くて、でも今振り払うべきではないと耐える。
これで紅の気が収まるならそれでいいし。
「…ところで、その紙はなんだ?」
「え?…あ、これは、」
昼間貰った手紙。
所謂ラブレターというものだったんだけど……今それを言うのは危険だ。
というかなんでこんなとこに置いちまったんだ俺。
言い淀んでいると何かを察したのか折りたたまれたそれを広げて。
再び眉間に皺が寄って、大きな舌打ちが聞こえる。
やばいとその音に震えると無言で体を持ち上げられた。
「え、ちょ、え、紅…!?」
行先は、寝室。
昨日もしたのに、もしかして。
気持ちいいことや想いを伝える行為として、それは好きだ。
けれど、これは違う。
やめてと叫んだ声はベッドに抑え込まれ合わさった唇で塞がれた。
こんなの嫌だと本気で力を籠めれば腕は解放された。
僅かでも距離を取って、早まる鼓動を沈めさせる。
「嫌だ!!」
「透…お前は、俺が、」
「……っ!好きだよ」
これが答えか。
わからないけれど、今そういうべきだと思った。
だってラブレターをあんな雑に扱っていたのは当然、俺にはもう紅が居るから。
想いを告げられても、そりゃ悪い気はしないけれど応えることはないから。
怒った紅は怖い。
人間だから絶対に敵わない力でこられた時、その一瞬だけ紅が嫌いになった。
俺は紅が好きだから、他の人に言い寄られてたら絶対嫌な気持ちになる。
多分それと一緒だとわかってる。
「俺が好きなのは紅だよ」
「………」
首に抱き着いて耳元で何回も伝える。
こんなことで喧嘩したくないし、何より信じてほしい。
そう願いを込めていたら、紅の腕が背中を回り体に巻き付いてくる。
痛いほどのそれを黙って甘受した。