「この子、もう契約してる相手いるから止めたほうがいいよ」
「…わかったよ」
カイン先輩の後ろに居たのでどんな表情だったのかはわからないけれど、相手の声が震えていたので想像はついた。
ここで来てくれたのが紅だったらどうなっていたことか。
「ありがとうございます」
「ううん、それより気を付けてよ。シアは?」
「呼び出しされてて」
「そう、じゃあ俺が送るね」
「いいですよ、そんな」
「送るから。…危ない」
最後に俺も、と付け足されたのが気になるが大人しく送ってもらうことにする。
だってちょっと怖かった。
無事送り届けてもらい、シアとカイン先輩は何かを喋っていたけれど俺に関係するなら紅から教えてもらえると思うので黙っていた。
正樹に何かあったのかと聞かれていて、それを上手く誤魔化すことに集中していたからってのもあるけど。
真剣な顔して話している二人は、話が終わるとパッと表情を切り替えて笑顔になる。
流石だと若干感心しながら穏やかな食事タイムへとなっていった。
夕方。
トントンと包丁で野菜を切る音。
今日の献立は紅が好きな肉料理だし、喜んでくれるかな。
紅が美味しいと言ってくれる様子を想像しながら調理していれば、扉が開かれる音がした。
「紅!おかえり」
「…透、今日何かあったらしいな」
「え?何もないよ?」
「…そうか」
何かあったと言えばあったけど、大事には至ってないから言うほどでもない。
この時はそう判断したので調理の続きを優先させた。
それに集中しすぎたせいで、紅の機嫌が最悪なことに気づかなかった。
今日は鶏もも肉を皮がパリパリになるように焼いたものがメインだ。
上手くいったし味見と称して先にちょっと食べてみた。
すげぇ美味いし、これなら紅も喜んでくれるはず。
「紅、飯出来たよ」
「ああ」
向かい合っていただきます。
いつも通り美味しいって言ってくれて、でも違和感を感じる。。
そしてそこで機嫌が悪いことに気づいたのだけど、無表情すぎやしないか。
さっき帰ってきたばっかりで原因かわからない。
その後皿洗いが終わるまで考えてみたのだがそれでも原因不明のまま。
いつも一通り家事を終えると俺もソファーに座ってテレビ見ながら会話するのだけど、ちょっと気が重い。
俺が原因なのかどうかもわからないが、不機嫌なままいられると怖い。
話をしてみようとお茶を注いで隣に座ってみる。
「紅…?あのさ、どうかした?」
「なんでもない」
「でも、なんか雰囲気怖いよ」
「なんでもない」
「紅、どうしたの?」
めげずに問いかけ続けたら、無表情だったその顔が唐突に歪められた。
眉間に皺がより美形の怒り顔の恐ろしさを体感したのだった。