経験は人を成長させる。
それは表情や雰囲気などからも滲み出てしまうものらしい。
「…?どうしたの?」
「いや、なんでもない」
そういうことを聞いたことはあったが、俺にそんな変化があるとは思えなくて。
確かに最近新たな門を開いた、けれど何の気にも留めていなかった。
だから紅が何か言いたげな視線で見てきた心境など知らず。
追及すれば良かったのかは、後になって後悔したことが答えとなった。
「最近雰囲気変わっってきたよね」
「…?気のせいじゃね?」
紅の意味ありげな視線の次の日。
正樹に雰囲気の話をされた。
とは言っても雰囲気なんて自分じゃわからないのでどうしようもない。
言われてみると、何故か最近視線を感じることは多いとは思う。
だが色々あって休んでたりしてたからきっと久しぶりだなとかそういった意味でだろ。
視線は気にせずに、実は昨夜、その、致してしまったせいで痛む腰をさする。
いつも平日は一回で終わるのに昨日は激しくて、二回戦までいってしまったのだ。
今日体育がなくて本当によかった。
けれど体全体が気怠くて、思わずため息をつく。
「…っ、…、!」
すると視線を感じ、そして俺の名前が若干聞こえてきた。
なんか噂話でもされているのだろうか?
「ねぇ、透」
「どうした正樹」
「移動教室だし早く行こ」
急かす様に言われたので慌てて教科書を持って立ち上がる。
その時、急に名前を呼ばれて動かそうとしていた足は止まったままに。
正樹は急いでたのかもう教室を出てしまっていた。
「何?どうしたの?」
「これ、読んでくれ!」
「おう」
紙を渡されたと同時に、相手はすぐに去ってしまった。
次の授業の場所とは正反対だが大丈夫だろうか?
そしてその日の昼休み。
天気がいいので外で食べようということになり、場所取りをしてくれる正樹と翠を迎えに行く詩葵は別行動となった。
シアと一緒に行くつもりだったのにそのシアも呼び出されて一人になってしまった。
仕方ないので次の授業の準備を終えてからノロノロと移動を始める。
椅子に長時間座ってるので余計腰が痛いんだよなぁ…
「ねぇねぇ、一発どう?」
「…は?」
ため息を吐いていた一瞬のうちに、唐突に腕をひかれた。
ニヤニヤと下衆な顔して言うもんだからムカついて、だけど必要以上に喋るのはいけないと自分を律し、無言でその場を離れようとした。
「なーんか君エロいんよねぇ」
「知りません。離してください」
腕を捕まれているせいで逃げられない。
気怠いせいでいつもより力がでないせいか、相手が吸血種だからだろうか。
そうならば力で敵わないのは当然で、そして更に危機的状況ということになってしまう。
「そうは言ってもさぁー」
「本当に無理で…」
「透?…何してるの?」
「っ、カイン先輩!!」
聞こえてきたその声に、藁にも縋る思いでその名を呼ぶ。
すると察してくれたのか掴んでいた相手の手を引き離して庇う様に前に立ってくれた。