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深い黒い光沢のある高級感溢れる車に扉を開けていてくれる運転手。
促されるままに体を滑り込ませ、柔らかい座席に座る。

「あの、会長・・・」
「なんだ?」
「なぜこんな目に・・・」
「俺が悪いことしてるように言うな」
「でもっ、これ本当になんなんですか!?」

夏季長期休暇だというのに毎日生徒会の仕事で潰される日々に悲鳴を上げたのは先日。
ならば明日は海にでも行くかと言われて頷いた。
まさか本当に連れて行ってくれるなんて思ってなくて、冗談だと思っていたから。

それが朝生徒会室へ向かおうとするところで会長に腕を引っ張られるがままについていけばまさかの高級車とビシッとスーツを着込んだ運転手が腰を綺麗に四五度に曲げて居た。
なんだこれはと思っていたら会長は平然と朝早くから悪いなと声をかけ車の中へと入って行った。
お連れ様もどうぞと言われたけどもう何がなんだかわからなくなったところで冒頭へと戻る。

「俺の家が所有するところだから、静かでのんびりできるぞ」
「え、今日だけですよね・・・お出かけは?」
「お泊まりデートもいいじゃないか」
「っ!・・・不意打ちは駄目です!」

一応恋人となったけれど特にそれらしいことをした覚えはない。
精々キスをするようにはなったけれどそれ以外はご飯を作って一緒に食べてぐらい。
だからこそデート、だなんて恋人たちだけが使うことのできるその言葉が妙に恥ずかしくて堪らなかった。

「どのぐらいかかるんですか?」
「高速道路で二時間と、船で三十分ぐらいだ。船酔いは?」
「船っ!?船酔いは特にないですけど・・・」

次元が違う。
それでも隣にいることが不思議で、そして嬉しい。

「とても海が綺麗な場所だ」
「そうなんですか」

楽しみだなぁと言うと後で騒ぐから今は寝ておけと言われたのでそれもそうだと思って目を閉じる。
昨日も生徒会室へ行きひたすら書類を処理していた。
そんななかでの些細な会話を覚えてくれて実際にこうして遊びに連れて行ってくれる。
幸せってこういうものかと思わず少し笑うと頭を大きな手で引き寄せられる。

「会長・・・?」
「お前がどうしたんだ」
「幸せだな・・・って、思って」
「俺もだ。ほら、もう寝ろ」
「会長も、寝ないと。疲れてるでしょう?」
「そうだな」

温もりを感じたままでまた目を閉じると、今度はすぐに眠気が襲ってきた。



「莉玖、移動だ」
「・・・ぁ、かぃちょ?」
「よく寝たみたいだな」
「はい。えと、ここは?」
「ああそうだった、今から船に移動するぞ」
「わかりました」

運転手によって開かれた扉から差し込まれる光に思わず顔をしかめる。
会長に少し笑われたけど、どうやら会長もそれは一緒だったらしくて眉を寄せてからけっこう大きめな欠伸をしていた。
俺も笑ってやるとさっさと行くぞと手を差し伸べられたので、両手で思いっきり掴んだ。
運転手の生暖かい目線が気になったけれど、きっと会長は事前に話をしているのだろうしとりあえず今はその、ラブラブしたいというかなんというか。
疲れた時には癒しが欲しいというけれど俺にとってそれは会長だ。
恥ずかしいけどまあ、癒されに、休みにきたのだから素直にいくとしよう。



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