1

パーカーを羽織り、財布と携帯をポケットに仕舞い込んだのと同時にチャイムの音。
両親は仕事に出かけているし従姉も休日は何やら創作活動を行っているらしいので出るのは俺しかいない。

下へ降りて誰かも確認せずに、予想をしていた相手の名前を呼びながら扉を開ける。
勿論その予想は当たっていてあいもかわらず面だけは良い目の前の人物。

「やほー時雨ー、お迎えがご到着したよー」
「ほんと、そのネタ好きですね」
「あったりまえじゃーん、時雨がお姫様ならー王子様は俺でしょ?」
「そーですか」

既に着替えも終わっていたのでそのままスニーカーをきちんと履いて外へ出る。
勿論?先輩は律儀にも扉を開けたままにしてくれている。
この女性扱いみたいなのはやはり慣れなどしないのだがまあ楽なので何も言わない。

「さってー、デートだねー」
「デートじゃなくて買い出しです」

鍵を閉めるのと同時に先輩がいつも通りふざけたことを言い出す。
今日はデートなんかじゃなくて部活で必要なものの買い出しだ。
けれどしつこいぐらいにデートデートと喚き散らすので俺ももう面倒臭くなりそうですねと言ってしまったのである。そう、言ってしまった。
すると先輩は予想通りに調子に乗り出しこちらの心臓が麻痺してしまいそうなぐらい甘い声で話し出す。砂糖菓子に練乳をかけた感があり、いろいろやばい。

「・・・先輩、これってここじゃ売ってないみたいですよ」
「まじかー、じゃあ四駅ぐらい先に別の店あったからそこ行くか」
「いい加減疲れましたよ俺」
「まーまー、買い出し終わったら普通にデートしよー?」
「本当にしつこいですね先輩」
「面白いからいいじゃん」
「貴方だけですよ、楽しんでるのは」

そうは言ってもまあ、このお姫様扱いはむず痒いところがあるが俺も楽しいと言えば楽しい。
先輩が甘やかしてくれるのもそうだし、移動中は好きな本について語れるし。
デートで何をするかはわからないが俺が喜ぶことをいつだってしてくれるんだよ、この無駄にハイスペックすぎるイケメンな先輩は。
本人には言ってなんてやらないけどデートならデートでもうそれでいい。
こちらとしても自分にとっての先輩は他とは少し違う、特別なことも自覚はしている。認めなんてしないけど。

店から出るときは扉を開けて待っててくれて、今まで買った荷物は俺は一つしか持っていないのに三つも持っているんだ。
流石にというか先輩に持たせすぎているので二つずつ持とうと提案はしてみたが綺麗にスルーされて先輩のお気に入りの本の話に夢中になって聞いていたら既に目的地に到着。

「時雨ー、そのリストに買ったやつしるしつけてくれたよねー?」
「はい」
「じゃあ後買ってないのはー?」

紙を取り出して赤ペンで印のついていないものを指さすと斜め後ろに立って後ろから覗き込むような姿勢をとる。
なんというか後ろから抱きしめられているような気さえする体制なので恥ずかしい。

「これは、はい、もう見つけましたよ」
「おー。じゃあ後はこれと、これ・・・」
「向こうの方を見ましょ、先輩」
「ん、時雨可愛い」
「頭がおかしくなったんですね先輩」
「これを痴話喧嘩って言うんだねー、俺は幸せ者だねー」
「先輩今年で高三ですよね、流石にこの言葉の意味を理解されていないとやばいのでは?」
「しっつれーな。俺と時雨のー関係では使う言葉でしょ?」
「・・・・・・・」

頼むから耳元で話しかけないでくれ。


そんなこんなで買い物が終わりそこら辺のカフェで一休みしてから帰ろうということになった。
俺は席取りということで一人多くの荷物を眺めながら注文しに行った先輩を待つ。
なかなか人気のカフェだったらしく結構な人が並んでいるので先輩が戻ってくるのは後何分後になることやら。

ここは甘味も有名なので苺タルトも頼んできてもらっている。
このカフェに入ったのは宣伝の看板にのっていたそのタルトが食べたいという俺の我儘だ。

「・・・ったく、ほんと無駄にイケメンなんだから」

あっさりとじゃあここにしようかと言う先輩。甘い砂糖が更に追加された声に動揺してしまった自分キモイ。
本当にあんな優しくされたら勘違いしちゃうし、というか俺男だし先輩の馬鹿野郎。
意味のない言葉を呟いたり胸中にへんな単語とかが浮かび出てきて困惑。
よくわからないから絶対先輩のせいだ。

「ねーねーそこの君、一人?」

誰だこいつ。



[ 1/2 ]

[*prev] [next#]
[戻る]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -