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「お前、何時の間にか俺よりでかくなったな」
少し暗くなった雰囲気に耐えられずにこちらから話題を提供すればニヤリと笑って胸を張る智哉。
ムカつくなあと思ったけれど後輩の成長はなんていうか嬉しいものだ。
「先輩は縮んだんじゃないですか?」
「うっせぇ!お前がデカすぎるだけだよ」
比べる様に己の頭の上に手を当ててそのまま隣にずらしていくとちょうど喉仏ぐらいにあたった。
智哉が正面に立つように移動したのでどうしたのかと上目に見上げると寂しそうに笑った。
智哉も寂しいと思ってくれている。
そんな事実が思っていた以上に弱っていた心を慰めてくれた。
暫くは引っ越しとかいろいろ忙しそうだけれど週末にはまた会いたい。
智哉自身来年度からは三年生になって受験勉強などの進路選択によって忙しくなるのだろうけど。
でも数分電話で会話することもできるだろう。
必死で繋がりを残しておこうとする自分がなんだか滑稽だけれどそれでも失いたくない。
「・・・・ねえ先輩、初めて会ったとき覚えてる?」
覚えてるも何もさっき思い出していたところだ。
そう伝えれば嬉しそうに目尻を下げてふわりと笑う。笑い顔が幼く見えるところは変わらない。
「俺、あの時運命かなーって思うんです」
「何お前ロマンチストなの?」
「茶化さないで」
笑う俺に先程の柔らかい雰囲気を捨てて少し硬い緊張したような真剣な顔をした智哉が俺の腕を掴む。
吃驚してまた何か言ってやろうかと思ったけれどもう何も言えなかった。
何故か泣きそうな顔をしながらこちらを見つめてくるどこまでも澄んでいるその瞳がこちらを見ていたから。
「先輩好きです。・・・先輩が居なくなると寂しい」
「俺も好きだよ、それに俺だって寂しいさ」
宥める様に穏やかな、優しい声を意識しながら返事をすれば何故かもっと泣きそうになっている。
その瞳から雫が今にも溢れてきそうで目元にそっと触れて―――目尻に口付る。
なんでそんなことをしてしまったのか分からないけれど無性に愛おしくて堪らなくなった。
驚きに見開かれた目がこちらを只管見つめていて気恥ずかしくなった。
いや、うん。確かにいきなり変なことしてしまったけど。
「先輩・・・性欲込みで好きなんですけど、これって」
恐る恐る訊ねてくる後輩の言葉にああそう言うことかと納得する。
後輩先輩の好き嫌いじゃなくて、一人の人間として好きなんだ。
納得してしまえば先程の無意識な行動も自然だったのかと一人でに笑ってしまう。
俺も案外簡単な性格をしているらしい。
好きだからこそ相手に触れたい、泣いて欲しくない、忘れて欲しくない。
「ん、俺もお前の事好きだ。・・・性欲込みで」
笑いながら最後に付け足して言うとちょっと気まずそうな顔を一瞬したけれどすぐに笑ってくれた。
そうだ、この顔が見たかったんだ。柔らかく笑うこの顔が。
「先輩、好きです」
その言葉が嬉しくて堪らなくて思わず掴まれている腕を振りほどいてそっと手を伸ばして頭を抱え込んだ。
フワフワした髪の毛が口もとに当たってちょっとくすぐったいけれどそれすらも愛おしい。
「好きだよ智哉」
背中に回った大きな掌の熱が何だかむず痒い。
それでも今この瞬間の幸せの一部だと思いながら頭をわしゃわしゃとかき混ぜる。
「先輩・・・康太先輩」
顔を上げた智哉がゆっくりと近づいて来てそっと目を閉じれば唇に触れる柔らかい感触。
何度も角度を変えながら口付をした。まあ、舌が入って来た瞬間突き飛ばしてしまったけれど。
「康太先輩酷い」
「っ、馬鹿野郎!」
口を掌で覆いながら少し叫ぶとそれでも嬉しそうに笑う智哉になんだか怒気が失せた。
全く、笑えば何とかなると思っているのだろうか。そりゃ何とかなるときもあるんだけれどさ。
「先輩、俺もS大に行きますから待っててくださいね」
「待ってるって・・・んな来年まで会えないみたいな事言うな」
「勿論毎日メールするし、週末は会いましょう!!」
「でも勉強」
「大丈夫です。先輩が待ってるって思ったら頑張れます」
コイツはタラシかとちょっと不安になったけれどこの不安も、恋人の特権と言うものなのだろうか。
もうなんていうか何もかもが幸せすぎて全部が愛おしくて堪らなかった。
もう一度近づいてくるその顔を両手で挟んで近距離で固定する。
たぶんキスがしたかったであろう智哉は少し不満そうな顔をするけど気にしない。
額をくっつけた状態で思いを口にする。
「ずっと待ってるから、お前の事。一年って長いけどそれでもお前の事好きだから」
応援するから、ずっと愛しているから。
そう囁けば薄らと赤らんだその頬から手を離してネクタイを掴むとそれを力一杯引っ張って、口づけた。
桜の木の下で出会った。
昼寝して、お菓子食べて。
桜の木の下で別れた。
キスをして、抱きしめあって。
そして来年はどこかの桜の木の下で君に言うのだろう。
大好き、と。
FIN
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