1

桜の開花を待たずに行われた卒業式。
その後は各教室で最後のホームルームとなるがそれすらも終わりを告げようとしていた。

「「今までありがとうございましたっ!!」」

女子はポロポロと涙を零しながら、男子は目元に力を入れながら最後に皆に向かって叫んだ。

それと共に少しずつクラスメイトが、教室を出ていく。
人の少なくなった教室を眺めていると仲の良い奴等が一緒に行こうと言ったけれどそれを断り一人残る。
それでも最後の一人となってしい、一度だけ振り返ってから教室を出ていく。
殆どの生徒は既に外へ出て記念撮影や別れの挨拶をしている。
仲良い奴等も記念撮影をしていたけれどそれを素通りして足を動かし続けた。

この三年間の日常が今更ながらに愛おしくて堪らない。
当たり前が続くわけはない、いつか別れ行くのがこの世の理だといえ懐かしんでしまうのは仕方ない。
思えばいろんなことを経験して、遊んで、勉強して、笑った。
辛い事だって勿論沢山あったけれどそれ以上に楽しくて幸せなことがあった。

皆で大きな行事の度に騒いだり。
昼食では友人と弁当の中身をとりあったり。
一回だけで、すぐに別れてしまったが女の子と付き合ったりもした。
クラスメイトと帰り道コンビニによって買い食いしたり。

そんな日常を思い出せば思い出すほどに胸の痛みは増していく。

でも、一番幸せな出来事はそう―――校庭の一隅にある桜の木の下で彼と出会った事だろう。

足を止めると目の前には大きな桜の木。枝にはそろそろ開くであろう蕾が沢山あった。

「・・・・智哉」

風に揺られる枝を見ながら彼の名前を呟けば二年生になった頃、初めて彼に会ったことを思い出した。

 
                     ***
 

その日も俺は昼食を友人ととった後一人で桜の木の下で昼寝をしていた。
ここは別にわかりにくいところではないがあまり人は訪れないので昼寝にはもってこいの場所であった。

既に桜の花は散りゆきその身を覆うのは艶のある緑色の葉だけであった。
大木に見合う大きな枝をそよ風に揺られるその姿を眺めながらの昼寝は非常に心地がよかった。
その為に五限目をサボろうと既に睡魔に半分ほど身を任せた霞がかかった頭で考えていた。

ぼやけた視界に誰かが映ったのを最後に俺は完全に夢の世界へと旅立っていった。


「―――、せ・・・い、先輩!」

然程強い力ではないけれどそれでも体を揺さぶられれば意識は戻ってきてそっと目を開いた。
すると視界に映るのは柔らかそうなハニーブラウンの髪の毛を持つ奇麗な顔をした一人の少年であった。

思わず目を見開き勢いよく起き上がるとその少年をもう一度まじまじと見る。

「あの・・・気持ちよさそうに寝ていたところ悪いんですけど六限目終わりましたよ?」

「へ?・・・うっそ!?マジで!?あー・・・うん、ありがとう起こしてくれて」

五限目だけをサボろうと思っていたのだがどうやら寝過ごしてしまったようだ。
そして六限目も終わってそれでも寝てたという事はもしかしたら夜まで寝ていたかもしれないのだ。
ここで寝ていた俺を見つけてくれて本当にありがとうと心の中で再度少年に向かって感謝の意を呟いた。

「えと、一年生?」

「そうです。ネクタイの色、違うでしょ?」

「ん、ほんとだ」

先程先輩と呼ばれたのを思い出して問いかければ肯定される。
二年生になったからとはいえ先輩面をするわけもなく、まずあまり関わりを持っていなかったので物珍しさで興味を持った。

「名前は何ていうの?」

「逢坂智哉(おうさかともや)です。先輩は?」

「俺は中嶋康太(なかじまこうた)」

「康太先輩ですか、宜しくお願いします」

「いえいえこちらこそ」

智哉とその後も雑談していれば好きなバンドが一緒なことや某ハンバーガー店で好きなメニューが一緒なことを知った。
いろいろと共通点が多くて話していると楽しかったのですぐに連絡先を交換した。

それから週末に一緒に遊んだり、ライブに行ったり、勉強教えてやったりと仲良くやってきた。
三年生になってもそれは変わらずに受験で会えない日も多かったけれど会えた日には会えなかった日の分まで語りつくした。

彼と直接会うのはいつも、この桜の木の下であった。
たまに最初少し話してその後授業をサボって一緒にお昼寝したこともあった。

いつでも桜の木は、大きくて逞しい枝で俺らに影を作ってくれていた。



「康太先輩」

会いたいな、と回想が終わっても桜の木を眺め続けていたら後ろから聞き慣れた声が耳に届いた。
後ろを振り返ると初めてあった頃より男らしくなって逞しくなった智哉が居た。

「智哉か、来てくれたんだ」

「はい。先輩、卒業おめでとうございます」

「ありがとう」

「大学は何処に行くんですか?」

「S大だよ。実家から遠いから一人暮らしするつもり」

「そうですか」

黙り込んでしまった智哉に胸が落ち着かず、ざわめく。

たったの一年でこんなにも心身共に変わっていく。
じゃあ、離れて一年たてば何が変わっていくのだろうか?
何が、失われてしまうのであろうか。

嗚呼、智哉に忘れられてしまうのが寂しくて仕方がない。
そしてもしかしたら俺自身がこの高校での生活を、友達を、智哉を忘れていくのかもしれない。
絶対に忘れないと言う確証が欲しい、けれどそんなものがないと言う現実と己が怖くて堪らなかった。




[ 1/2 ]

[*prev] [next#]
[戻る]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -