13
香苗さんに現在の体調を話し終えると、少し疲れたのでまた寝ることにした。
風邪だと些細な事でも全ての動作が負担に感じてしまうようだ。
「ごめん、俺寝るわ」
「疲れたわよね。看病はしっかりするから安心して」
「よろしくお願いします」
冗談交じりに笑いながら言うと二階の部屋まで上るのに身体を支えてもらう。
正直立っただけでも立ちくらみが起こったので香苗さんがいてよかった。
階段から落ちるなど、流石に洒落にならない。
部屋に辿り着いて、横になると布団をかけてもらってそのまま目を瞑る。
すぐに眠気に包まれて、意識を失っていった。
次に目を覚ましたのは午後4時ぐらいであった。
お粥を食べて香苗さんと少し話して12時ぐらいに再びベッドへ戻ったから4時間程寝ていたことになる。
今日の夜寝れなさそうだと思うけど、さっさと熱を下げたいので安静にしなくては。
「おはよう。体調はどう?少しはすっきりした?」
「まぁ、・・・頭の痛みは取れた気がする」
「よかった!あ、一応熱計って!」
「わかった」
もう一度熱を測ると37度6分。
あまり変わってはいないけれど、少しでも下がったのは事実。
「んー、やっぱ病院行ったほうがいいかしら?」
「大丈夫だよ、ただの知恵熱だし一晩寝たらきっとよくなる筈」
「そう。って、知恵熱?熱が出るまで何を考えてたの?」
香苗さんの純粋な疑問に、一気に体温上昇。
先輩のこと思い出してしまった、もういやだ。
「ちょ、時雨!?顔真っ赤!大丈夫・・・?は、もしかして五十嵐君!?」
「っ、いや、その・・・」
「え、え、え、なに、進展あったの!?っ、ああごめんね、体調悪いのに!」
沈まれ私の鼓動、抑えろ腐女子の本能と叫ぶ香苗さんを若干冷めた目で見ながらも、なんだか逆に落ち着いてきた。
そうだよ、母さんと香苗さんってちょっと変わった人だった。
香苗さんって普段は普通なんだけど、時々男っぽい口調になったり変な事を叫びだす人だってことを忘れてた。
「いや、別に・・・」
「それで?それで!?詳しく言いなさい」
「俺体調わる、」
「もう!ここまで来たら言っちまえ!」
「・・・ひかない?」
「どんとこいやーーー!」
俺の気持ち、この前の出来事、先輩の真意がわからないことなど、簡潔にまとめたつもりだけど結構長くなってしまった。
実際問題体調が悪いのもあってゆっくり喋ったし。
「それ絶対両想い!キタコレ!リアルできましたかー、きましたかー!」
「両想いなんて、簡単に言わないで」
「・・・なんで?だってそれどう考えたって」
「男同士だし、コレは香苗さんがいつも読んでる創作じゃなくて現実の話なんだよ!」
「そうだよ。だから、物語みたいに気持ちをサクッとわかってくれる超人な攻めもいないし、物語みたいに男同士の恋愛なんて簡単にいくわけないじゃない」
「香苗さん、わかってるなら・・・」
「男女でも難しい恋愛を、言葉も無しに解決させようとしないの」
香苗さんの言葉に、思わず口を噤む。
言葉を好きだと、いろんな言葉をどうのこうのと言っていた自分が、言葉の大切さを忘れていただなんて。
「時雨の気持ち、たぶんだけど五十嵐君は既に悟ってるんでしょ」
「・・・たぶん」
「時雨の言った好きの意味を分かっていながら、考えろって言ったんでしょ」
「・・・たぶん」
「勝算はありそうじゃない!ちゃんと自分の伝えたい意味を言葉にしなさい!私の勝手な妄想だけど、きっと良い結果になるわよ」
「・・・本当?」
「ほら、よく言うでしょ?時雨の好きになった人なんだから、大丈夫」
「大丈夫、か」
「ふふ、ここは頼りなる従姉を信じてみろ!」
「・・・うん」
先輩の言った好きの意味。
それが俺の期待した意味でなくても、それはもう仕方のないことだ。
理屈では通じない、それこそ言葉も意味をなさない心の問題だから。
だけど、俺の言った好きの意味。
それは俺の気持ちだから、どれだけの想いなのか伝えることは出来るから。
この気持ちをどれだけ言葉に出来るのか。
「・・・小説書く」
「は?ダメ!寝なさい!」
「香苗さんがダラダラ話してたんじゃん」
「この野郎!調子が戻ったからってそれか!」
先輩への想いだけが残ったこの気持ちを認め、そして結果への恐ろしさよりも伝えることを決めたから。
このすっきりした状態で、今なら恋愛小説が書けそうだと思う。
結果が悲恋になるかどうかはわからない。
それでも、俺なんかの、些細な恋の話だけど、恋をした者ならきっと抱くであろう想いを俺も知ることが出来たから。
先輩に会いたい。
この恋に早く決着をつけてやりたい。
それがどんな結末だろうと、俺の気持ちを本に纏めて先輩に送りつけてやろう。
軽くなった心で、先輩に想いをぶつけるために体調を戻すため、もう一度布団にもぐりこんだ。
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