12

目を覚ますといつも通りの毎日が始まるはずなのだが、今日は物凄く頭が痛い。
寝つきが悪くて、あまり寝られなかったせいだろうか。

「あら、いつもより早いわね。おはよう」

パジャマのまま下へ降りると母親の声。
おはようと返してそのまま通り過ぎようとすると腕をつかまれる。

「・・・顔色悪いわよ?原稿の締め切りは今日までだったかしら?」

「いや、原稿は今日までじゃないけど」

そんな言われるほど、今の俺は顔色が悪いとは。
まあ俺は睡眠はたっぷりとらないと日中つらい人間だからか?

「一応熱計っときなさい」

「うん・・・」

「あれ?時雨、おはよう。どうしたんだ?」

「はよ、父さん。熱あるか計ってる」

「ああ・・・顔色が悪いな。無理するなよ」

ちょうど仕度を自室でしていた為か、リビングに居なかった父さんがそろそろ時間らしくて部屋から出てきた。
父さんにもすぐに顔色が悪いと言われたけど、そんなに酷いだろうか?

もう時間がやばいらしくて、急いで会社へと向かう父さんを見送ってすぐに鳴る体温計のピピピという音。
ゆっくり取り出して目の位置まで持っていく。

「母さん・・・37度9だ」

「そう、わかったわ。お粥作るから部屋戻ってもう一回寝てなさい」

「でも会社」

「ごめんね、会社休めないから日中はついてられないけど早目に切り上げて帰るから」

「大丈夫だよ」

「香苗にも連絡入れとくわ」

「了解」

久しぶりに出した熱。
原因は、きっと、先輩にある。

知恵熱なんてただの学校を休むための嘘の一つだと思っていた自分が馬鹿らしい。
考えすぎて熱を出すことも、本当にあるんだ。
身を以て体験したことだし俺はこの先忘れること無いだろうなぁ。

朝起きたときは、この倦怠感は寝起き特有のものだと思っていたが、どうやら熱からのものらしくどんどんと力を奪われていく感じがする。
そしてその数分後、半ば気絶するように意識を手放した。



夢の世界では、俺は誰かに抱き着いている。
その人は俺を抱きしめ返してくれて、ただただ涙が溢れた。
現実の昨日に溢れだした想いにはまだ蓋が出来ていないらしく、好きだと叫ぶ。
こうやって、縋り付くように愛を叫んでやりたいよ。



「んっ・・・」

ゆっくり目を開き、ぼやけた天井が見えてきた。
ベッド脇の目覚まし時計を見ると午前11時。
そこそこ長く寝ていたらしいが、やはりズキズキと痛む頭や倦怠感で溢れる身体は治ってなどいてくれなかった。
額には母が張ってくれたであろう冷えピタがあったけど、それも随分と生温かい。

そして、目覚まし時計を置き石に使うようにメモが置かれていた。
お粥は鍋の中に入ってるから食欲が出たら食べなさいとのことであった。

お腹はどうだろうと横たわりながら腹を擦ってみるけど、わからない。
空腹なような、満腹なような、兎に角表現できない。
それでも朝も食べてないし少しだけは食べたほうがいいかと身体を起こす。

紙に書かれていた通り鍋に入っていたお粥は冷えていたので電子レンジで温めなおして食べる。
少し多く掬い過ぎたようで食べるのに苦労したけど、皿一杯分はきちんと食べれたので食欲的な意味では大丈夫だろう。

食べてすぐに横になってもいいが、どうせ寝付けないだろうと生暖かい冷えピタを取り換えてリビングのソファーで読書。
そして10分ほど過ぎたころであろうか、音を極力出さないような努力が窺えるほどに控えめな玄関扉の開く音が聞こえた。

「お邪魔しまー・・・あ、時雨!起きてたの?」

「今お粥食ったから、少し起きてる」

「そう。食欲は?」

その後も熱の時に聞かれるであろう体調の様子についていろいろ聞かれて、香苗さんの質問責めは終わった。


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