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口から零れ落ちていた言葉に、やってしまったと呼吸が止まる。
そして俯いて顔を隠す、そこまでは条件反射のように身体が動いたけれど、今は金縛りにでもあったかのように動かない。

俺がこんなに動揺するからばれてしまうのだ。
だって先輩はきっと冗談で言えって、後輩としての言葉を望んでた筈なのに。

じわりと滲む涙を、今度こそ抑えられそうにない。
衝動で動いて、成功する人間などほんの一握りしかいないというのに。
先輩を好きだという、最早本能のままに言葉を発してしまうなんて、愚かだ。

「俺も、好きだよ時雨」

滲む雫が、零れ落ちる前に聞こえてきた声に急激に引っ込む。
泣きっ面になる前に涙が引っ込んだ代わりに、今度は顔が赤くなって、熱い。

冗談でしょって、言ってやりたいのに言葉が出てこない。
この言葉が欲しくて堪らなかった。
だけど、本当に欲しいのはこの好きじゃない、俺が欲しいのは、

ああもう、俺は何を考えているんだ。
我慢しなきゃいけないのに。
言葉にして溢れ出る想いが、どんどん俺を強欲に変えていくようだ。

「は、もういいですか?帰ります」

「そうだね」

思った以上にあっさりと返されて、俺としては理性を総動力させたものだったのにと若干悔しい。
先輩にとっては、やっぱりその程度のことだったのだと、わかりきっていた事実に傷つくなんて本当に愚かで、恋とは恐ろしいものだと再度身に染みる。

残り数十メートルの帰り道。
本当に家はそこだったので助かった。
これ以上一緒にいたら俺は、どんなボロが出てしまうのか嫌な意味で未知の領域だ。

「それじゃあ、また部活にも来てくださいね」

「時間出来たら行くつもりー」

失礼しますと頭を下げて、鞄から鍵を取り出すと鍵穴に差し込み扉を開ける。
さみしいって少し思っちゃうのは、やっぱり傍に居たいから。
重症だな、自分。

そうして家の中に一歩踏み出す、直後に腕をつかまれる。

「ちょ、なんですか先輩?」

「時雨にさ、言い忘れたことあって」

「なんですか・・・?」

なんだかいつも以上にあくどい笑みに、本能的に恐怖を感じる。
俺は一体何かをやらかしてしまっただろうか。
いやまぁ色々とやらかしてしまった気もするけれど。

「時雨の好きって、どうゆう好きなの?」

「っ、あ、」

「それと、俺の好きってどうゆう好きだと思う?」

ばれている、そう感じて一気に顔が青ざめていくのが自分でもわかった。
だが、その直後に更なる言葉の追撃。

考え込みそうになる俺の背中を軽く押されて、びっくりして視線を合わせるように見上げると、更に深い笑みを浮かべた先輩がいた。
俺は瞳を開いたまま、更に口を開けたままという間抜けな表情で固まったままだったのだが、先輩はそのまま俺を家に押し込む。
そして先輩はというとバイバイ、と悪戯っ子のように微笑むと、颯爽と去って行った。

ドアの閉まる音。
それにも俺は反応できず数十秒立ち尽くし、意識を戻して再び扉を開けども、当たり前のことだが先輩は姿を消していた。

「・・・・・俺、どうすりゃいいんだよ」

一人呟く声は、静かな空間では思いのほか大きく響く。
それをどうこう思うより先に、先程の問いに対する答えを探してしまう。

俺の好きは、もう当然のように恋愛的な要素が含まれた好きだ。
でも、先輩の好きってのは後輩に対する思いだろうし。
だとすると何故わざわざそんな問いかけをするのだ。

期待をするな、してはいけない。
心臓よ、もういっそのこと止まってくれ。

高鳴りすぎて最早痛んできた心臓をおさえながら、漸く玄関から動き出した。
部屋へ行くのにリビングを通り過ぎる時、母さんに何か話しかけられたけどもうそんなもの耳に入ってこない。

いや、心臓の音で消されているのかもしれない。
なんてばからしいこと考えて、とりあえず顔の熱が引くまでは部屋で大人しくしていようと心に決めた。

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