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冗談で、面倒臭そうに好きっていうの。
真顔で疲れたように好きっていうの。

俺には、もうそんなことできなさそうだよ。

「ねーねー、もう家着いちゃうじゃん」

「あー助かりました。それじゃあ」

「だーめだめよー」

「ちょっ、先輩!」

腕をつかまれて歩みを止められてしまう。
重なる視線を咄嗟に逸らしてしまったけれどそんなこと気にしてる場合じゃない。
今はこの赤くなった顔を隠すほうが先決だ。

「俺はさー、時雨のことこんなに好きなのにー」

「ありがとう、ございます!わかりましたから放してください!」

「だって時雨好きって言ってくれないじゃーん」

「そ、れは」

真っ直ぐに見つめられているのは、わかる。
痛いほどの視線は、俺の心をの決死の防御壁を少しずつ、だけど確実に壊していく。

だって、だって、好きなんだ。
どんな意味であろうとも好きな人に、好きって言われて。
嬉しくて、嬉しくて、だけど少し悲しくて。
こんなにも痛くて、なのにどうしても手放すことのできない感情。

愛しいのだ。
意地悪だけど、優しくて、たまに怖いときもあるし、チャラついてて嫌だって思うのに、それでも最後には好きで、好きって感情しか残ってくれない。

先輩に恋をして生まれた持論だが、恋や愛に定義などないのだ。
どんな愛し方でも、なんでもいいのだ。
ただ、そこに計算や狂気などは何もない、何も着飾らない自分のままの心で、真っ直ぐに好きだと言えるのなら。
これが、俺の愛し方だ。
定義など何も必要などない、これが、俺の愛なのだ。

「しーぐーれ、こっち向いてー!」

いやいや、なんて幼児がやるみたいに頭を振る。
すると先輩は簡単に掴んでいた手を離してしまうのだ。
消えた温もりにはっとして顔をあげる。

先輩は確かに少し強引だけれども、決して俺の意思に反することは決して無理強いしない人なのだ。
いつも俺を尊重してくれるというか、でも自分の意思で行動し、言葉を発しているから逃げることは出来ないけれど。

「あ、・・・」

合わさった視線に、泣きそうになる。

溢れる、溢れてしまう。
好きだって想いが、どうしても消えることの無い想いが。

「ね、たまには先輩に好きっていっちゃいなさい」

諭すような声音に、この好きって言わせたいのはおふざけの一環で、ちょっとした冗談だってのがわかってしまうんだ。
だけどね、もう、ダメかもしれない。

「せんぱ、い」

「ほら、時雨」

耳元で囁かれる声が鼓膜を震わせ、俺の心まで震わせる。
ねえ、どうしようもなく先輩のことがさ、

「す、き・・・」

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