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結論を言おう。
やはり先輩はバスケ上手だ。
三年生のグループは、長い間共に戦ってきたこともあり連携が凄い。
上手なパス回しに翻弄される二年生を少し気の毒に思ったぐらいだ。

それでもやはり体力は落ちているのか後半からは二年生が反撃を開始して、結果的に負けたものの僅差の勝負となった。

そして試合後は、これはあくまでもスタメンを決めるための試合だったので二、三年生とコーチはミーティングとなった。
俺たち一年生はドリブルやシュート練習、走りなどのメニューをこなさなければならない。
もうちょっと長く試合してても良かったのにと思いながらも、黙々と練習に励んだ。


ハードな練習で汗だくの布を気持ち悪く思って、顔を顰める。
するとちょうど時間になったので今日の練習は終わりとなった。

「はーい。久しぶりに参加したけどちゃんとしてて安心した。頑張れよ」

「では俺からも。一年にも見込みのある奴らは多い。来年目指して頑張れよ」

などと三年生から有難いお言葉を頂いてようやくお着替えタイム。
汗臭いこのTシャツともようやくお別れだ。

練習が終わったことへの喜びで一目散に部室へ行こうとすると、五十嵐先輩が来た。

「時雨ー一緒帰ろ」

「はい。わかりました」

返事をして再度部室へ向かう。
顔が、緩んで仕方ないや。


お先に、と声をかけて帰路に着く。
空には満天の星、隣には先輩と恋する俺にはなんとも心臓に悪い空間だ。
久しぶりに会えたこともあり、鼓動のリズムは少し早目だ。
練習時にはやることあったし先輩とも少ししか話さなかったしで大丈夫だったけど、そっからいきなり二人きりとは。

伝える気持ちはない。
そう何度も自分で決める。

それでもこの恋心は既に存在してるわけで。
あるものを無に帰すには、この想いが消滅する、死ぬというわけで。
つまりは俺が他のものへ興味を移し先輩への想いが自然消滅するか、死ぬしかないのだ。
どちらとも無理だから、俺は隠すだけ。

隠せてるかな、大丈夫かな。
好きって気持ちが時々溢れそうになってしまうけど、零れた想いの一滴でも知らせるわけにはいかないのだ。

もしも女の子になれたらと思うことがたまにあっても、もう既に男として生まれてきた者なので、そう考える気にすらなれない。
焦がれる思いが、いつか身体の全てを焼き尽くしてしまったら、そんな妄想もするかもしれないけど。

「時雨、しーぐーれー!」

「っ、はい」

「久しぶりに会えたのにさー、先輩悲しー」

「すみませんって」

むくれた態度をとる先輩に、笑いながら謝る。
けれども思考は、焦り掌に少量だと願うが汗が滲む。

「まったくもー、時雨ったら可愛いんだから」

「だ、から・・・女の子に、言って下さい」

自分の言葉に、傷つくのなら、言わなければいいのに。
だけど、平静を保っていられないんだよ、先輩と二人きりだから。

恋って、愛って、なんて恐ろしいんだ。

この心の揺れを全て恋や愛のせいにして、一時でいいからと必死に余計なことばかり考えてしまう思考にストップをかける。
なかなか意識的にするのは難しいけれど、兎に角耐えろ思考よ。

「はぁ、俺はこんなにも時雨のこと好きなのにさぁ」

なんでいつまでもツンツンしてるんだって喚く先輩に、夜道で良かったと深呼吸。
どうしてこの人は俺の心臓を止めるようなことばかり言うんだろう。
心臓が止まったら自動的に考えることも止められるんだろうけどさ、死にたくないさ。

空元気でなんとか平静を取り戻すことに努め、適当に返事を返す。
だが、その言葉が悪かったからか先輩は、なんと好きと言えというのだ。

「先輩みたいにほいほい言いません」

「えー、時雨は俺のことー好きでしょ?ほら、セイ好き!」

ただでさえ気持ちが溢れそうなのに。
言葉が漏れたら、俺はどうなってしまうんだろうね。

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