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あの一件があっても先輩の俺に対する態度はあまり変わらず、普通に接してくれる。
強いて言うならばなるべく怪我しないのが一番だけど、指の怪我は絶対に気をつけろと言ってくれる。
嬉しいような、宇月蒼に嫉妬するような、ちょっと複雑な気分だ。


「おーい、一年、そろそろ練習終わりな!」

新しい部長の掛け声で片づけに入る。
汗だくの額を拭って、練習後のミーティングが始まる。

未だに部長が五十嵐先輩じゃないことに違和感を感じるものの、それはあまりにも今の部長に失礼なので頭を振って思考を切り替える。

「三年生が引退して、新しいメンバーを今考えている」

一年生も出番はあるから頑張ってアピールしてこいとのコーチからの激励で締めくくられて着替えに更衣室へ向かう。
そして先輩方に挨拶をしてから一人帰路につく。

少し前までは一緒に帰っていたのに、なんて過去を振り返ってもしょうがないこともわかっているのだが、それでも、さみしいなんて。

我儘だと、思う。
宇月蒼である自分を好きな先輩。
好きの意味は違えども、それでも後輩としても可愛がってくれて、好きな人と多くの時間を共有出来て。
男同士の叶う可能性の低い恋愛において、そのようなポジションになれたことだけでも、きっと幸福なのだ。

なのに、自分は我慢ならないのだ。
不毛な恋を仕舞い込んで、いつか来るであろう痛みが消える日を待つことなど、出来ない、無理に決まってる。

結局自分は怖がりなのだ。
男女の恋愛にも言えるが、今の関係を崩したくなくて身動きが取れない。
上手くいった場合もあるけれど、男女のそれより確実に確立が低い。

先輩が俺をそういった意味で好きになってくれる確率は一体何分の何だろう。
こうやって、確率を求めている時点で俺は、弱虫。

もう既に星々が夜空を彩っていて、一人空を見上げる。
会いたいと、ただ想った。


そんなある日、五十嵐先輩を含め複数人の三年生が部活に来てくれた。
どうやら先日のメンバー決めとやらが結構困難で、既にスタメン入りが決まっている者以外の二年生と三年生を戦わせるらしい。

元々学年関係なく強い人がメンバー入りするというのは決まっているものの、そう簡単に先輩方を抜かして入れる後輩などそうそういない。
特に高校男子の場合、たった一年だろうが体力や体格の差がすごい。

三年がまだ居るときに二年生の一部もスタメン入りなどはしていたけれど、それは極わずかだ。
そりゃ一年の中でも中学三年間バスケやってて上手い人は居るけど、体力が無く、まだ体格も出来上がっていないのですぐに力負けしてしまうのだ。
それを超える技術を持つ者は、そうそういないだろう。

ともかく、三年生と戦ってるとこでどれだけ多く点を決めたかなどでメンバーを決めるらしい。
一年でも将来有望な奴はいるけれど、さすがにスタメンなどにはなれないだろうから今日は専ら審判だ。
正直嬉しいとか言わない、体力ついてきたとはいえ練習きつい。

ボール出しして今日は楽でいいなぁと一人まったりしていると、久しぶりに見る先輩。
かっこいいなぁって思うなんて、本当に惚れてるなぁ、自分。
先輩を好きな自分を否定することはなくなったけど、伝える気などない。
それでもこうして自分でもわかるぐらい頬が緩むなんて。

「時雨ー、久しぶり」

「そうですね。勉強は順調ですか?」

「まーねー、俺頭いーから」

「はいはい。体力落ちてないか心配ですけど、まぁ頑張ってください」

「しつれーな。大丈夫だって、かっこいい先輩健在だから」

それに失笑するふりをしてみるものの、実際かっこよく見えてるから困る。
集合がかかって走ってく先輩の後ろを見ながら、やっぱり好きだなって、ただ思った。



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