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固定された体を一生懸命動かしても、精々上半身ぐらいだ。
それでも頑張っているとようやくサイドテーブルに置かれた目覚まし時計が見えた。
時刻は既に正午を少し過ぎたところであった。

十分な睡眠をとれたので、後はこの空腹を満たせれば三大欲求の二つはコンプリートだ。
残りの一つに関しては俺はもともと淡泊なのか知らないが、同年代の奴等より処理する回数は少ないと思う。

そんなことはどうでもいいとして、この空腹をどうにかしたいものだ。
第一にこの先輩の腕と言う名の拘束から逃れなければいけないのだが、先輩が夢の世界に閉じこもっているみたいなので無理だ。
とにかく先輩を起こそうと体を揺らすのだが、起きないので少し苛つき、その顔面を少し力を込めて叩いてみると呻き声。
連続技ということでそのあと耳元で先輩、早く起きろと割かし大きな声で叫ぶ。

「・・・んー時雨?」

「先輩!起きて下さいよ、お腹すいたんです」

「えー・・・」

「飯食ったらまたお昼寝しましょうよ、ね?」

意外と朝が弱いとか、寝起きは素直なのは屋上で共に昼寝をして何回目の事だろう。
思い出して少し笑ってしまうと、不機嫌な声が聞こえるのでそちらへ目を向けるとまた大きな体に包まれそうになって、慌てて逃れる。

なんとか立ち上がって、下へ降りるとキッチンの奥の棚にあるカップラーメンを取り出して電気ケトルで湯を沸かすとそのままいれて三分。
その三分の間に、先輩が降りてきてまだ眠そうな顔のまま俺にもくれと言う。

「うどんとかパスタとかもありますけど、どうしますか?」

「時雨と同じのー」

まあどれも即席麺なので三分から五分程度で何もしなくとも出来るのだが。
今食べていたものと同じのを取り出してまた湯を沸かすといれて先輩の前に出す。

眼を擦っていた先輩はありがとうと言うとそのまま手を洗い、ついでに顔を洗ってきたので先程よりしゃきっとしてはいるけどまだぼーっとしてるみたいだ。
面白いなーとか思うけど、そのまま三分たって麺を食べ始めたころにはもとに戻ってた。

「ねー、またお昼寝もいいけどさーなんかしようよ」

「それはいいですけど、うちにはゲームとかあまりないですよ」

「時雨で遊ぶから大丈夫」

「ばっ、かじゃないですか、人で遊ぶとか最低です」

食事も終わり、ソファーに座りながらテレビを付けるとそれをぼーっと眺めていた。
すぐに食べ終わった先輩変なこと言いながら近づいてくるまでは。

先輩のにたにたした笑い方が嫌でつっけんどんに返事をする。
それでも傍に寄ってきて髪の毛触ったり力技で俺を足の間に挟んできたりとか。

「じゃあちゅーとかする?」

「しません」

「じゃあもっといいこと」

「今すぐ地獄に堕ちろ」

思わずきつめな声で言ってしまったけどどうせ先輩なんだからいいだろう。
腹に回ってきた腕を蚊でも払うように叩くと今のうちだと逃げる。

先輩はこんな時絶対捕まえようとしないのを知っているからひとまず安心する。
いつも何時の間にか檻の中に居るんだけど、先輩は鍵をかけない人だ。

「うわー時雨生意気ー!」

「悪かったですね」

「まー仕方ない、優しい先輩が許してやろー!」

「はいはいどーも。また本でも読みます?」

「読むー」

早速俺の部屋に戻って本棚を物色し始める先輩。
俺はと言うと仕事関係のメモなどが乱雑に机の上に置かれていたので必死で処理中だ。
題名や原案が書かれたものなどあったのですぐさま破り捨てた。

「何か気に入ったの有りました?」

暫く掃除と言う名の隠蔽作業をして、やっと終わったので一声かける。
どうやら先輩は何やら本を取り出して真剣な顔をして読んでいた。

「うん、宇月蒼の」

「それですか。確か、最新作でしたよね」

「俺出てたの知らなかったー!」

口を尖らせながら、夏は部活が忙しくて本屋何て行けなかったからなーなど呟いていた。

その間、俺が思ったのはこれはガチでやばいと言うことだけだ。
何故かと言うと今先輩が読んでいる本はまだ発売されていないサンプルなのだ。
二日前程に、サンプルが出来たと送って貰った。
表紙絵を綺麗に描いてもらい、自分的にも満足できたので嬉しくて見やすい場所に置いていたのが見つけられてしまった一番の原因だろうけど。


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