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打ち込まれていく文字の羅列を眺めながらも頭の中では全く別のことを考えている。
どうして先輩が、だなんて思うけれど部活帰りに俺の家に寄って来た時に本好きだと知った。
それと「宇月蒼」の作品が好きでファンだとも言っていた。
実際に俺の本を買うところを見たし作品について感想を言ってた時のあの楽しそうな顔は嘘だとも思ってない。

タイプミスに舌打ちしながらもようやく終わった原稿を読み直す。
あとは担当に連絡を入れ、本来の期限である明後日に押しかけてくるのを待つだけだ。

冷静に考えろと自分に何回も言い、頭の大部分を占めている先輩のことを頭から放り出す様に何回も頭を振る。

ポジティブに考えれば、というか現実的に考えれば俺が断った時点でもう繋がりは断たれている。
それでも出版会社でバイトしてるなら、いずれは就職しようとしているなら何時かそこで面識を持つこともある、かもしれない。
可能性はいくらでもあることは本来ならばいい意味なのだろうが今回に限っては迷惑でしかない。


「・・・・何で先輩がここに居るんですか?」

「何でってー、今日学校だよー?」

「は?」

「だから学校!いやーいつもより早めに来て良かったわー」

「今何時・・・」

「はーいどーん!」

デジタルの目覚まし時計を見せられて目を見開く。

「7時・・・?」

「そう、時雨のお母さんから連絡が来てねー」

最近本当にキノコが生えそうなぐらい引きこもってるからもう夏休みが明けて学校があることを忘れてそう。
朝早めに来て一緒に朝食でも食べたらどうかしら?
というのが母親の言い分だが、とりあえずキノコ生えるって相変わらず酷い。
そしていくら早めに来いったって早く来すぎだろう、学校まで家から20分以内で着くのに。

「てか何やってたのー?こんな時間までパソコン開いてさー、徹夜?」

「あの・・・何時から居ました?」

「メール打ってたとこ」

セーフ、セーフ、よかったー。
こんなスリルを味わうのは本当に何年振りだろう、出来れば味わいたくなかった・・・

「どうかしたのー?」

「いや、何でもありませんよ。ただいくらなんでも早すぎじゃないですか?」

焦って暫く無言の状態が続いたのだが俺の様子がやっぱり変だったらしく先輩から声がかかってくる。
やっぱり詰まりそうだったけどいい感じで話をそらせたので満足だ。

「だって、久しぶりの時雨じゃん」

「・・・そう言えばそうですね」

ドキッとなんてしてない、全くしてない。
というか本当にやめて欲しい、言い慣れてるからこんなにすんなりとそんなこと言えちゃうんだって思ってしまうから。

「メールとかそんなしつこく送ってるつもりねーのに全然返してくれないし」

「あー、充電器がどっかいっちゃったんですよ」

「ふーん」

あまり納得しているようでもないが今を乗り切ればこんな些細な会話など忘れてくれる。
大丈夫だろうと着替えるから下で母の相手でもしといてと追い出す。
ちょっぴり不満そうだったけど、その理由はわからないので早くしろと半ば蹴りだす様になったが仕方ないとして欲しい。

追い出して滅多に閉めない鍵を閉めた。
何故閉めないかと言うと原稿に追われて何も食べずに長時間パソコンに向かっていることがたまにあり一度倒れてしまったからだ。
執筆作業が忙しいとはいえ朝から晩まで一度も姿を見せない俺を心配した母親が第一発見者となった。
それ以来母親が原稿で忙しい時など定期的に見にきたり、軽食を持って来たりするために鍵を開けている。
どちらにせよ見られて困るものなどないのであまり鍵は閉めてなかったけど。

兎にも角にもさっさと着替えなければと思うが風呂に入ってないことに気付きシャワーを浴びに行こう。
流石に始業式に風呂に入らずに登校とか酷すぎるだろう。

パソコンの横に無造作に置かれていた先輩の携帯番号を書いたメモを一瞥して部屋を出たのであった。

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