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三年生が居なくなった部活は大会も終わったこともあり暫く休みのようだ。
勿論冬にも大会があるし、今の二年生達主体のチームも早く作らなければいけないのでそう長くはないけれど。
それでも小説に力を入れることが出来そうなので良かった。
確かに部活も楽しみを見いだせたとはいえこっちは仕事なのであまり放置することも出来ない。
恋愛小説云々の話を書いてみるとは言ったけどその仕事だけではないのだ。
不定期だが雑誌に載せる小話も書かなければならないし、作詞の依頼も来たので結構忙しい身であるのだ。
学生だから、なんてそう通じないぐらいには有名になったから仕方ない。
パソコンを立ち上げ途中の文章の続きを書き始める。
頭に思い浮かんだものをそのまま言語化するのは楽しいし、自分が今持っている言葉で表せないとモヤモヤする。
そのモヤモヤを消すために辞書を引くのも結構好きな作業だ。
電子辞書も持っているけど普通に紙の辞書も好きなのでどっちも愛用させて貰ってる。
「・・・はい、天宮です」
作業を続けて一時間程たった時に電話が来たので出るとまた新しい仕事が入った。
なんかまた雑誌の小話を書いてみないかだって、今度短編集でも出してみよっかなぁ。
『あ、それと』
「なんですか?」
『新しくバイト・・・というか雑用係が入ってね』
「それは良かったですね」
『将来編集になりたいとも言ってるんだ』
「はぁ・・・未来の部下登場ですか」
いい加減何が言いたいのだろう。
俺がこの出版会社で用があるのは担当のこの人だけなので関係無い筈だ。
『君に会いたいって言ってるんだ』
「断っといてください」
何度かサイン会してとか要望が編集者からもファンレターからも来たけど絶対嫌だ。
未成年だというのも大きな理由だけどやっぱり俺が書いてるとなればファンががっかりしてしまうだろう。
何時の日か近くでサイン会があるから行ってみたら最新刊がゲロ甘の恋愛小説な作家が50過ぎのおっさんだった時の悲しみは消えない。
それまでは恋愛小説からSF系まで幅広く書いていたから凄いなぁと思っていたけどその瞬間必死で顔を忘れようとしたものだ。
確かに途中で砂吐きそうとか思うけど恋愛小説を全く読まないわけでもないのだ、俺は。
それでもその瞬間確かに暫くそうゆうお話は暫くいらないなと強く心の中で思ったのだった。
話を戻すが兎も角俺はファンと会うつもりはないのだ。
小説の中では小難しいことをまるで人生の先輩の様に書いたりするけど実際はこんな青二才だ。
『でもねー、君に会いたくて将来は編集者になるとまで言ってるんだよ?』
「・・・それは嬉しいですけど、出直してこいって伝えてください」
『厳しいねー時雨君。まぁ、連絡先は絶対渡してって頼まれたから』
「はぁ・・・わかりました、とりあえず教えてください」
電話番号を近くにあったメモ用紙に書いていくたびに僅かな既視感が生まれてくる。
なんだこのデジャヴあり得ない、だってこれは新しく入ったバイト君のもので俺が知る筈も無いのだから。
その後二三言葉を交わしてから電話を切る。
すぐに執筆作業に戻らなければ期限に間に合わないとわかっているのに体が動かない。
暫くしてからハッとしたように自分の意識で指先が動くようになったことに安心してタイピングを再開する。
脳内に浮かんだ言葉を書き進めるのだが、それでもあの電話番号が頭の中を3分の1は占めていて邪魔をする。
さっさと調べればいいのだと番号を書いたメモ用紙と携帯を出す。
本来なら俺に会いたいだなんて編集さんが先に断るとか先生にサイン会でもするように言っとくよなどで済むのだと思う。
それでもこの出版社の俺担当の編集さんはなんというか優しすぎると言うか、未来の部下にお願いされたらって感じで請け負ってしまう。
それは人として良いのだろうけど悪い人に騙されやすそうなので少し心配でもあるのだが。
「えっと08XXXX―――これって」
なんで、先輩の番号と一致するのだろう。
第四章へ続く―――
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