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点をとったら取り返されて平行線を辿る一方だ。
相手校が焦ってミスをし、チャンスかと思えばボールを奪われるなどの繰り返し、そしてまた逆も然り。

この大会で優勝する為にみんな死ぬ気で頑張ってきたのはどの高校も一緒だ。
その中で勝ち残ってきて決勝戦まできたのだ、これはもう勝つしかないだろう。

「気抜くなよ!」

疲れて少し動きが鈍くなった先輩に五十嵐先輩が声をかける。
背中を叩かれたその先輩の表情が締まったのをみて流石だなと思う。
そして当の五十嵐先輩と言えばスリーポイントを決めていた。

今までの均衡が崩れていき、更に相手校に焦りが見えてきた。
そこですかさずシュートを決める副部長に騒めいていた会場が更に湧き上がる。
このペースで攻めていけば俺たちの、勝つだろう。

余裕が出てきた為か、先輩方の表情が明るくなった。
ここで決して慢心を抱くことなどなく、差をつけてやろうと思うのは本当に凄い。

だが相手が焦っているとは言え、決勝戦まできた実力は相当なもので点を奪っていく。

あと、残り一分となる。
五十嵐先輩の表情は第一クォーターよりは明るくなったとは言えその雰囲気は鋭い。
女子が騒ぐのも仕方ないなと苦笑しながらも俺もボールをつき、支持を出している先輩の横顔を眺める。

もうすぐ目の前に先輩のプレイ姿の終わりと、優勝が見えてきたところなのだ。
少し寂しいことと凄く嬉しいことが同時に来れば嬉しいことの方が大きいけれど、確かに胸には小さな痛みが生まれるのだ。

会場の大きな音にハッとして目を向ければ残り時間はもう10秒。
そして今、五十嵐先輩がボールをつきながらリングへと走っていくのが見えた。

行く手を阻むように先輩の周りに敵チームが集まっていくが、それをものともせずに躱していく。
先輩の妨害をしていた敵チームの一人が手を伸ばすけれど既に先輩は高く跳び上がり、そのまま輪の中にボールを押し込んだ。
いわゆるダンクシュートと言うもので、地面にボールが落ちたその瞬間に試合の終わりを告げるブザーが鳴った。

何というか、本当にどこまでも劇的というか。
漫画内で主人公が時間ギリギリに必殺技出して逆転勝利みたいな、そんな感じ。

「よっしゃぁ!!」

もしかしたらブザー音よりも大きな声で先輩方が叫び、つられるように会場内がざわめきだす。
隣にいた藤堂先輩もその大きな目いっぱいに涙を浮かべ、一筋零れ落ちてしまったようだ。

「藤堂先輩、優勝ですよ」

「うん・・・やったー!!」

涙声ながらに大きな声をあげ、ガッツポーズしながらコート内の先輩方におめでとうと言っている。
俺もそれに合わせておめでとうございますと叫ぶと振り返る五十嵐先輩。

「あ・・・っ!」

気づいてもらえただけで嬉しいと言うのに、わざわざこちらに近づいてくる先輩。
だけど試合の終わりにはきちんと挨拶をしなきゃいけないもので、そして表彰式もあるもんで。
副部長に肩を掴まれたらしい先輩は不満そうな顔をして、だけどすぐにその顔には満面の笑みを浮かぶ。

悔しそうに涙を流す敵チーム。
初戦敗退とか、そんなとこからすれば決勝戦までいったなんて夢のまた夢のようで羨ましい限りだろう。
それでも彼らは決勝戦まできてしまったのだ。
あと一歩でその栄光を掴むところに来て、そして横から掻っ攫われた。
それを笑って終わらせることなど出来ないのだろう。

そんな彼らを真正面から笑みを消して見つめる先輩の目には、一体どんな風に映っているのだろうか。
俺は先輩じゃないからそんなこと理解など出来やしないけど。



まだ引退式まであるけれど、もう実質的にはこれで本当に引退。
終わった、と言葉にするのは簡単だけれども納得すると言うか受け止められるかは別問題。

「お前ら全員のおかげで優勝できた、有難う」

そして泣かせるつもりなのかここで部長からのご挨拶。
残念ながら俺はこれで泣くことはないと思うけど、二年生の一部の先輩は必死で泣くのを堪えているようだ。
一年生も部長である五十嵐先輩から個別で練習に付き合って貰ったりしてた奴は既に泣いている。

「これで俺ら三年は引退だ。最後に念願の全国大会優勝が出来て本当に嬉しい」

その後も先輩からはこれからはお前らが頑張れよとかエールをくれた。
でも残念なことに俺の頭の中では五十嵐先輩の声で、「引退」「最後」の言葉が出てきた時点で思考が停止した。
何回も何回も終わりだってことを自分の中で整理してその事実を受け止めようとしてきた。

先輩自ら言われてしまえば無理にでも納得するしかない。
それが現状であり、変わることの出来ない事実なのだから。

次々に三年生から引退という言葉が出てくる度に胸が締め付けられる思いがする。
言わないで、やめてと現実逃避したい。
涙を流してこの辛い思いを全部出してしまえばいいのだろうが周りの奴らみたいにできない。
ただ、顔を歪ませて先輩を見ることしかできなかった。



そしてその3日後、無事に引退式を終えて先輩は正式にバスケ部から居なくなった。



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