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次々と点を決めていく先輩方。
その中でも一際輝き、声援を最早一身に浴びていると言っていいぐらいの五十嵐先輩。
それでも相手もここまで勝ち残ってきた強豪校で、去年優勝したことでも有名だ。
惜しくも去年は準優勝だった先輩方は、ある意味この相手校を倒す為に練習してきたものだと言われたこともある。
今はこちらがリードしているとは言え、点差は僅か4点。
先に2回シュートを入れられればすぐに同点になり、スリーポイントでも決められればたまったもんじゃない。
偶に写真を撮っていた藤堂先輩も今は固唾を飲んで見守っている。
会場もどちらかが点を決める度に歓声が響き、ボールを奪われる、奪う度に悲鳴のようなものも混じった声があがる。
汗を滝のように流している先輩方、そして第三クォーターが終わるブザーが鳴り響く。
「ドリンク持ってきて!」
「はい!!」
こちらにくる先輩方にタオルとドリンクを渡して、必要な人にはテーピングをする。
「天宮、こっち手伝ってくれ!」
「今行きます!」
他にもいろいろ手伝いをして、監督から次の作戦内容の指示を聞いている先輩方。
五十嵐先輩も何か言っていたようだけど離れた場所にいたので聞こえなかった。
先輩方にとって本当に次で最後の試合なのでいい意味で目が据わっている。
その雰囲気はちょっと怖過ぎるけど、先輩方のプレイ姿を見れるのも最後かと思えばしんみりとした気持ちになった。
「時雨くん、部長様のお呼びよ?」
「え・・・はい、今行きます」
五十嵐先輩からのお呼び、だなんてちょっと不気味だ。
それでももう休憩時間も少ししか残っていないし、早く行かなければと足を動かす。
「先輩、どうしたんですか?」
「なんでもいいから応援のメッセージ頂戴」
「そんないきなり無理ですよ」
「早く、時間無い」
唐突に呼び出したかと思えばそんなこと言われても困る。
なんでもいいから、と言うなら本当に王道で頑張って下さい、とかでいいのだろうか?
先輩が満足してくれる、納得してくれる、やる気を出してくれる、というのが条件だろうがどうしようか。
時間が迫っていることもあり、あんまりいいメッセージが思いつかない。
「時雨」
それに、いつもの間延びした話し方と掠れた声が心の燻りを刺激するのだ。
「先輩、頑張って下さいね」
「うん」
結局王道だなんだ言っていた台詞になったけど先輩は満足そうだ。
笑う先輩は俺の頭に手を置いて軽くぐちゃぐちゃにする。
俺はどうすればいいかわからない、と手の感触が気持ちいいという馬鹿気た感情で動けなかった。
「じゃ、行ってくる」
「あ・・・先輩っ!!」
思わず引き止めてしまった自分に驚いたけど、先輩も同様に驚いたようだった。
「先輩のバスケする姿は今日で最後だから、ずっと先輩のこと見てました」
「へぇ?そうなんだ」
「だから、最後までかっこいい先輩のプレイ姿見せて下さいね」
先輩が口を開こうとした瞬間、ブザーが鳴り響いた。
何故だか知らないが不満そうな顔をして俺の頭に乗せていた手をゆっくりと離した。
そのまま背を向ける先輩は何も言わずにコートへ向かい、俺はというと後ろ姿を眺め続けた。
「さあ、時雨くん!応援するわよ!」
「はい」
藤堂先輩の横にいき、何かを渡されたので見ると画用紙によしゆきハートマークという何とも言えない人名と絵文字。
「藤堂先輩・・・」
「部長のヤル気を1000パーセントにする魔法のアイテムよ?」
「そーですか」
思いっきり棒読みになった感は否めないがまあいいとしようか。
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