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会場の熱気、歓声はまもなく始まる試合に更に大きくなっていく。
入場した瞬間にこんな煩くなるのだからこれで先輩方がシュートの一本決めただけでまた大きくなるのだろう。
そんな様々な要素が俺の機嫌というか気分を急降下させていった。

「・・・うっせー」

思わず呟いてしまったが、誰にも聞かれなかったことに安堵。
流石にこんなことを客席に向かって手を振ってる先輩に聞かれたらフルボッコだ。

「時雨くん、飲み物の鞄こっちに!」

「今持ってきます!」

普通に話したら歓声に消えそうなので半ば怒鳴るように、叫ぶようになってしまう。
そのまま藤堂先輩についていくとアレしてこれ持ってきてと雑用のオンパレード宜しくいろんな指令がくる。

「時雨くん!アレ持ってきて!」

「わかりました」

「あ、ついでにこれ持ってって!隅に置いとけばいいわ!」

「はい!」

同じ道を何回も往復して準備して、やっと終わったと椅子に座ったところでブザーが鳴り響く。
瞬時に先輩方の顔つきや雰囲気が殺気立つような、戦うそれに変わっていった。
そんな様子に思わず鳥肌が立ち、背筋に冷汗が伝った。

さっきとは180度変わり歓声の声が消え、静まり返る会場に始まりを告げた審判の声が大きく響く。
それ以上に両チームが挨拶しあう声は凄かったけど。

すぐにコートに散らばり中心には五十嵐先輩とたぶん相手方の主将さん。
やっぱりジャンプボールをするだけあってどちらもすっごいでかいし威圧感が凄い。

面倒だ、だなんて思っていた俺も審判の手からボールが離れるのを固唾を呑むようにただ先輩を見守った。
向き合い相手を睨むようにお互いを見る主将方だけど、やっぱりボールを凄い意識してるらしく、ブザーが鳴り空に放たれたそれに手を伸ばす。
高校三年生という、もう体の出来上がった大の男の渾身のジャンプはそれはもう高いもので、それだけで会場を沸かせる。

喜ばしいことにボールを取ったのは五十嵐先輩で、ベンチに居る俺らは勿論客席の他の1年とかも叫んでいる。
そしてその周りに居る俺らの学校の女子たちが先輩の名前を書いてハートマークが書かれた紙を持っている。

あ、だめだ。
そんな心を制御する間もなくズキリと胸を締め付ける痛みが襲い、体を強張らせる。

登下校を共にしていれば、何回も先輩が女子に囲まれるところや級友と談笑している姿を見かけた。
特に何とも思っていなかったけど、意識しだしてからは原因不明のモヤモヤが胸を占めていた。
それもすぐに夏休みが始まってしまったので忘れていたけど、こんなとこでまたモヤモヤが発生するだなんて。

少し俯いて太腿に置いた手を固く握りしめた。
そんな俺の状況を知ってか知らずかシュートを決め、先制点を奪った先輩が声をあげて喜ぶ。
俺らも喜んでそれぞれが歓声をあげるけど、やっぱ女子のいわゆる黄色い声という奴が凄く目立つ。

もう知らねーと半ばやけくそになったような心境で顔をあげるとこちらをみてピースする先輩。
そしたら副部長の・・・うん、副部長に頭叩かれてて思わず笑ってしまった。

「・・・ったく」

仕方ないなーこの気持ちは。
俺が先輩を好きになっても、あるいは他の人を好きになっても絶対に一度は感じる想いなのだろう。
気にしない、というほど割り切れてもいないけど先輩は俺を頭の片隅ぐらいには入れてくれてるんだし、今はそれでいい。

嫉妬は醜いとか、強すぎる感情は恐ろしいとか言われるけどさ。
それでも何というか変な日本語だけどちょっとだけ綺麗な嫉妬もあるんだなーって思った。
純粋に想うからこその不安、誰かを妬むのではなく自分に自信がないからこその不安、それが嫉妬ってものなのかな。

「・・・次!!ぜってー点決めるぞ!!」

「っす!!」

どうやら点を取り返されたようで悔しそうに叫ぶ五十嵐先輩に頷いて返事する他の先輩方。

「・・・ガンバレ、先輩」

叫んだあと、こちらを見た先輩に口を動かしてみた。
さっきピースしてきたんだからお返し、というのも変だがこんぐらいしてもいい。

少し驚いたような先輩に、してやったりという感じでちょっと気分がいい。

「しーぐれくーん」

「っ!あ、藤堂先輩」

「随分と五十嵐部長と仲良くなっちゃってー」

「そんな、普通ですよ?」

そう言うと普段の先輩の対人用の笑みと俺との時がちょっと違うらしい。
他人と自分で線引きする、だなんてこともないけど進んで自分の領地にいれることもしないと言う。

「だからね、すっごい珍しいのよ!!今の驚いた顔とか!!」

「はぁ・・・」

「いやーいい写真手に入れたわ。これあそこの女子共に何円で売りつけようかしら」

「・・・藤堂先輩は五十嵐先輩のこと客席の女子達みたいに好きじゃないんですか?」

「かっこいいとは思うけどそれだけね。いい商売させてもらってるし」

そう熱く語る藤堂先輩がわけもわからずかっこよく見えた。

「ま、兎にも角にも時雨君といるといろんな表情するからいいわ、とてもいい!」

背後に母様と従姉が見えたような気がするのは気のせいだろうか。
完全にそんな腐ったような臭いはしないものの、同じ穴の狢というか何というか、近い気がする。
俺は特に女性恐怖症と言うわけでもないが、同年代の男と比べてそんなのに興味がないのは確実に周りの女性のせいだろうな。



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