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待ちに待った本戦・・・だけど、まだ俺の気持ちはモヤモヤしたままで整理なんて出来ていなかった。
それでも待ってくれないのが時間のいけずなところで気が付いたら何回か試合を終えたところだ。
全国大会と称するだけあって、これからも沢山試合はあるけれど実際に俺が出るのは数試合なのであまり実感がない。
「しぐれー、時間だよー」
今日も今日とて俺の迎えに来る先輩に、表面上は落ち着いたものが出来るようになったと思う。
「わかってますよ。もう着替え終わりますから待ってください」
下でまっててと言っているのにいつも結局は俺の部屋の前までくる。
諦めたとはいえ、毎度板一枚越しから聞こえるその声に心臓の鼓動が早まって出ていくタイミングが掴めなくなる。
扉を開けると壁に寄りかかりながら携帯を弄っている先輩。
俺に気付くとすぐに立ち上がってじゃあ行こっか、だなんて笑みを浮かべて階段を下りていった。
今日は今まで勝ち残ってきた中で一番弱小校と言われるところだった。
それでもここまで残っているのだから気を抜ける相手ではない。
「とりあえず、最初に時雨と安本入れて様子見」
どうやら第一クオーターでは俺と二年の先輩が入るみたいだ。
連日の試合で三年生のスタメンの先輩方は疲れが結構出てるみたいだし。
「わかりました」
「ん、じゃあ最初木本と水城は控えさせるから点差つけとかなきゃな?」
冗談めかして嘯く先輩に一瞬笑いが起こり、周りが和やかな雰囲気になっていく。
それでも最後には絶対勝つぞという力強い声に皆の表情が変わっていくのがわかる。
これは、俺も頑張らなくちゃな。
大きな声援が会場中を埋め尽くす。
登場したぐらいでそんな騒ぐなと、煩いのが嫌いな俺は思ってしまうけど、わざわざ応援に来てくれている人たちだ。
そう、だから目の前で爽やかに笑いながら手を振かえし、余計声援を大きくさせる先輩に文句何て何一つない。
わかってるさ、嫉妬だって。
小説を書くためにいろんな言葉を学んできたけど、自分で感じることはなかったさ。
それが先輩に出会ってからただ知識として知っているのではなく、自分自身として知るようになった。
嬉しい?そんなわけあるか、感情ってのは確かに綺麗なものも沢山あるけど、ただ苦しいものも沢山あるんだ。
「しーぐれ?」
「・・・わかってます、いってきます」
どうして先輩はこんなにタイミングがいいのだろうか?
感情が溢れ出してよくわからなくなる、自分の中で整理がつかないような時に声をかけてくる。
ぐちゃぐちゃになった思考を断ち切ってくれる、救いの手のようで笑える。
ウォーミングアップを済ませて審判の笛の音に集まっていく。
俺も後ろにそっとついて、挨拶を済ませるとポジションにつくために散らばっていく。
ボールが叩きつけられる音に、ハッとして視線を向けるとキラキラした先輩が走っていた。
一直線にリングへと向かいネットに触れなかったんじゃないかってぐらい綺麗にシュートを決めた。
相変わらずその姿はどこまでもかっこよくてちょっと泣きそうだ。
それでも今この場に立っているのは俺も同じなんだからと気合を入れなおす。
控えている先輩方も、俺で代わりになれるレベルの相手なら今回は休憩出来るのだから。
「天宮!!」
「っ、はい!!」
勢いのあるパスを受け取って、一人躱してゴールの傍へと向かう。
シュートを打つ間際に背の高い人が邪魔しにかかってきたので少し無理な体勢だったけど近くにいた先輩にパス。
パスを届けたら、俺を妨害してた人は慌てたように離れていくけどもう遅い。
手から綺麗な放物線を描いて離れていくそれは吸い込まれるようにリングが飲み込んでいった。
「ナイス判断」
「ありがとうございます」
そう言いながらも相手側から始まるのですぐに奪えるように隊形をつくる。
始まってすぐだけどもうちょっときついな。
でもそんなこと言ってられない状況なのもちゃんとわかってきた。
「・・・よし、」
やりますか。
結果として余裕、といえば余裕で勝った。
スタメンの人たちを休ませるように二軍、と呼ばれるベンチ組が最終的に試合に沢山出ていた。
途中で先輩もベンチに入ってゆっくり休めていたのでよかったよかった。
そしてこの試合を終えたらとうとう優勝候補との試合があるらしい。
もう準決勝戦の一歩手前というらしく、三年の先輩たちの顔も凄く締まっている。
五十嵐先輩に限っては普段からこの顔をしていただければとっても嬉しいのだけど。
ついでに言うと今回の試合の対戦相手校のエースと言われる人が怪我をして出れなかったらしいのだ。
それを思えばちょっと卑怯なことしたみたいだ、とちょっと後ろ暗い気持ちになるけどこれは試合だから仕方ない。
先輩と俺との別れは華々しく終わらせたいんだから。
全国大会に優勝して、笑って泣いて―――そして終わりたい。
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