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朝起きて制服に着替える。
その時に腕に薄っすらと昨日先輩に握られた痕が見えた。
怪我したところはきちんと冷やしたし、テーピングも母さんにして貰ったので大丈夫だ。
というかそうやってきちんと治療しとかないと今度こそあの般若に殺される。
先輩が新しい怪我?みたいなものさせてどうすんだよと言いたいが昨日のアレを見てしまったらもう何も言えない。

溜息を吐きながら階段を降りるといつも通り少なめの朝食が置いてあった。
それと母さんから紙切れにもう出かけました、鍵をきちんと閉めてとメッセージが残されていた。
それを一読するとすぐにゴミ箱に放り投げる。

朝練があるから早くしなきゃいけないとわかってても眠い。
だから食べるのも遅いと言うかコーンスープをすごく零してしまった。もったいない。

あー、と口から垂れるそれをまるで他人事のように眺めてたら玄関のほうからベルの音がした。
こんな朝早くにいったい誰が何の用だと思って無視しようかと思えば、思い当たる人がいる。
というかこんなことするのは確実にあの人だけだろう。

口元をさっと拭って駆け足で玄関へと向かい、扉を開ける。
案の定予想通り先輩がいつものへらへらとした笑みを浮かべて目の前にいた。

「おはようございます」

「驚かないのー?」

「朝から来るなんて、先輩ぐらいですから」

そういうと先輩が笑って、俺も笑った。
じゃあお邪魔しますという声にん?なんかおかしいぞだなんて思っている間に侵入されていた。

「俺飯食ってる最中だったんですけど」

「あ、ほんとだーって少なすぎでしょ」

「朝食べれないんです」

そしてここでようやくお母さんとお父さんはと聞かれたのでもう会社に出かけたという。
母さんと先輩は俺をいじめるという共通の趣味があるので悲しきことにけっこう趣味が合う。従姉様ともだけど。

とりあえず急いで食って着替えてくると部屋へ向かう。
先輩は朝のテレビで占いを見ると言って勝手に電源をつけてソファーの中心部に座っていた。


階段を上がって自分の部屋へ入ると、へたり込む。

「・・・はあ、ダメだ」

いつも通りにしなきゃいけないのはわかってる。
昨日聞いた通り先輩は俺が最近おかしいのを知っていながら自然なふるまいをしている。
俺も合わせなきゃいけないのに、全然駄目だ。

制服を素早く着込むけど、夏服のために半袖でテーピングのあととか手首の痕も見える。
これを見て先輩はどんな反応をするのだろうか。
心臓に手をやればいつも通りの規則的なリズムを刻んでいることを確認する。

よし、と一声あげて扉を開けばすぐ横の壁に寄りかかっていた先輩。

「・・・先輩、何してるんですか?」

「時雨の生着替えを覗こうかと」

「部活の時普通に見てるじゃないですか」

「なんか新鮮じゃん」

やめてやめて、これ以上惑わせないで。
高校男子特有のノリと言うかふざけていることは理解している、わかってるのに。
言葉にできないこの歯痒さに掌を固く握る。

「それより早くいきましょうよ、遅れますよ?部長」

「はいはーい」

母からの伝言通り鍵をきちんと閉めて家をあとにする。
隣には先輩がいて、周りには先輩のファンか知らないけど女の子が遠巻きにこちらを見ている。
そんな光景も、もう見慣れていた筈なのに自覚してしまえば醜い嫉妬の対象へと移り変わっていく。

そして先輩の隣にいるのは俺だと言う少しの満足感。
完全なる自己満足だと言うのもわかっているけれど、今ここにいるのは他の誰でもない俺なのだ。


「おはようございます」

「はよー」

体育館につくと挨拶してすぐに着替えて練習。
三年生の先輩方はもう既にミニゲームをしていて大層気合が入っているみたいで、ちょっと遅くなったのが申し訳ない。
そして五十嵐先輩も本当は早く行きたかったはずなのにわざわざ俺のことまっててくれて申し訳なさすぎる。
本当なら一番に体育館に向かい、ボールに触れたかったであろう先輩は、やっぱりきらきらした目で既にボールを追いかけていた。



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